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知的障害のある子の相続と後見人

知的障害のあるお子さんがいるご家庭では、財産をどう残すかと同じくらい、残したあと誰が管理するかが問題になります。そこで出てくるのが成年後見制度です。ただ、後見人をひとり決めて終わり、とは限りません。後見人は複数選ぶことができます。その仕組みを中心に、公的な資料にあたって整理しました。

親が亡くなったあと、手続きをする人が必要になります

相続が起きると、まず遺産の分け方を決めます。相続人全員で行う遺産分割協議です。ここで、判断が難しいお子さんの扱いが問題になります。意思能力がないまま行った法律行為は、無効とされているためです(民法3条の2)。そのままでは協議が成り立ちません。

そこで、家庭裁判所に申し立てて、代わりに手続きをする人を立てることになります。それが成年後見人です。制度は判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助の3つに分かれていて、判断が難しい状態が続いている場合は、いちばん手厚い「後見」になります。

なお、財産の全部について分け方を遺言で決めてあれば、遺産分割協議そのものが要らなくなります。この点は知的障害のある子に財産を残すときにまとめました。ただし遺言があっても、預金をおろす、名義を変えるといった手続きをする人は、別に必要です。

親が後見人になることもできます。ただし、その親も相続人であるときは、遺産分割で親と子の利害がぶつかります。この場合、親は後見人として子を代理できません。家庭裁判所に特別代理人を選んでもらうことになります(民法860条、826条)。後見監督人がついていれば、その監督人が子を代理します(民法851条4号)。

もうひとつ、押さえておきたいことがあります。後見は一度始まると長く続きます。お子さんが若いほど、何十年も続きます。親が後見人になっても、その親がいなくなれば、次の人が必要になります。

そして、後見人になるのは親族とは限りません。令和7年に選ばれた成年後見人等のうち、親族は7,014件(16.4%)、親族以外は35,718件(83.6%)でした。親族以外の内訳は次のとおりです。

令和7年に選ばれた成年後見人等のうち、親族以外の内訳(関係別件数)
司法書士11,966
弁護士8,903
社会福祉士7,280
その他法人2,933
行政書士2,235
社協1,615
その他396
市民後見人390

合計35,718件です。「社協」は社会福祉協議会、「その他」は社会保険労務士214件・精神保健福祉士79件・その他個人60件・税理士43件の合計です。この数は、後見等の開始と同時に選ばれた場合を数えたもので、開始後に選ばれた事件は含まれていません。

出典:最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 ―令和7年1月〜12月―」(令和8年3月)

後見人による不正は、実際に起きています

最高裁判所は、後見人等による不正事例の件数と被害額を毎年公表しています。令和7年(2025年)は178件、被害額は約7億9千万円でした。このうち、弁護士や司法書士などの士業によるものは26件・約1億6千万円です。残りは士業以外の後見人によるものでした。なお、同じ資料では士業を「専門職」と表記しています。

母数もあわせてご覧ください。成年後見制度の利用者は、令和7年12月末日時点で259,901人です。178件は、そのなかの数字です。割合としては大きくありません。

ただ、お子さんの後見は何十年も続きます。長い期間、ひとりの人に財産を預けきりにしてよいか。そこは考えておいたほうがよい、というのがこのページの趣旨です。

出典:最高裁判所事務総局家庭局「後見人等による不正事例」(実情調査)。この数値は、その年の1月から12月までに、家庭裁判所が一連の対応を終えたものとして報告したものです。不正そのものが起きた年ではありません。利用者数は前掲・成年後見関係事件の概況によります。

ひとりに任せきりにしない、3つの方法

後見人が一人だけで財産を動かせる状態にしない。そのための仕組みが3つあります。いずれも決めるのは家庭裁判所ですが、申立てのときに希望を伝えることはできます。

1. 後見人を複数選ぶ

民法は、後見人がすでに選ばれている場合でも、家庭裁判所が必要と認めるときは、さらに後見人を選ぶことができると定めています(民法843条3項)。

ここからが大事なところです。後見人が複数いるとき、家庭裁判所は職権で、共同して権限を行使するか、事務を分けて担当するかを定めることができるとされています(民法859条の2)。「できる」であって、必ず定めるわけではありません。定めがなければ、それぞれの後見人が単独で権限を行使できます。頭数を増やしただけでは、一人では動かせない状態になりません。

ですから、複数にしてほしいと希望するときは、共同で行使してほしいのか、事務を分けてほしいのかまで、あわせて伝えることになります。分け方には大きく2つの形があります。

  • 事務を分ける ── お金の管理は司法書士や弁護士の先生に、日々の生活や施設のことは親族に、という分け方です。財産に手が届く人と、本人の暮らしを見ている人が別になります
  • 共同で行う ── 財産を動かすのに二人の関与が必要になります。手続きは遅くなりますが、一人の判断だけでお金が動くことはなくなります

複数選任は、めずらしい話ではありません。令和7年に認容で終局した後見・保佐・補助の事件は39,860件でした。これに対し、選ばれた後見人等を関係別に数えると42,732件です。最高裁はこの差について、1件の事件に後見人等が複数いる場合、複数の「関係別」に当たることがあるためだと注記しています。

2. 後見監督人をつける

家庭裁判所は、必要があると認めるときに、後見監督人を選ぶことができます(民法849条)。後見人の事務を監督する立場の人です。後見人と本人の利害がぶつかる場面では、監督人が本人を代理します(民法851条4号)。

令和7年に認容で終局した39,860件のうち、後見監督人等が選ばれたのは1,375件、約3.4%でした。ただしこれは、後見等の開始と同時に選ばれた場合の数です。開始後に選ばれた事件は含まれていません。

3. 後見制度支援信託・後見制度支援預貯金を使う

日常の支払いに必要な分だけを後見人が手元で管理し、通常使わないお金は信託銀行等に信託する、または指定の預貯金に預ける仕組みです。引き出したり解約したりするには、家庭裁判所が発行する指示書が必要になります。

令和7年の1年間に新しく利用したのは、支援信託が615人、支援預貯金が2,005人でした。平成24年2月からの累計利用者数は、支援信託が31,234人、支援預貯金が13,511人(平成30年1月以降の集計)です。信託と預入れの財産額の累計は、約1兆4,873億円になります。

使える範囲には決まりがあります。支援信託の対象は成年後見と未成年後見だけで、保佐・補助・任意後見では使えません。支援預貯金は成年後見・未成年後見・保佐・補助が対象です(保佐と補助は、一部の金融機関で令和7年10月から利用できるようになりました)。未成年後見で使えるかどうかなど、細かい条件は金融機関の商品によって違います。

出典:最高裁判所事務総局家庭局「後見制度支援信託等の利用状況等について ―令和7年1月〜12月―」

費用はどうなるか

後見人を複数にすると報酬も倍になる、と思われるかもしれません。そうではありません。東京家庭裁判所の報酬額のめやすでは、後見人が複数の場合、報酬額を、担当する事務の内容に応じて按分するとされています。

一方、後見監督人をつけた場合は、その分の報酬が別に加わります。こちらは按分ではありません。

成年後見人等の基本報酬のめやす(東京家庭裁判所)
管理する財産の額 後見人 後見監督人
1,000万円以下 月額2万円 月額1万円〜2万円
1,000万円超
5,000万円以下
月額3万円〜4万円 月額1万円〜2万円
5,000万円超 月額5万円〜6万円 月額2万5,000円〜3万円

管理する財産の額は、預貯金と有価証券などの流動資産の合計です。身上の世話に特別に困難な事情があった場合は、基本報酬額の50%の範囲内で加算されることがあります。これとは別に、特別の行為をしたときに相当額が加算されることもあり、こちらに上限の定めはありません。親族が後見人の場合は、報酬付与の申立てがあれば、これを参考に事案に応じて減額されることがあります。報酬額の基準は法律で決まっているわけではなく、家庭裁判所が事案ごとに判断します。これは東京家庭裁判所が示しているもので、家庭裁判所ごとに扱いが異なることがあります。

出典:東京家庭裁判所・東京家庭裁判所立川支部「成年後見人等の報酬額のめやす」(平成25年1月1日)

ひとつ、正直に申し上げておきます。誰を後見人にするかを決めるのは、家庭裁判所です。申立てのときに候補者を書くことはできますが、そのとおりに選ばれるとは限りません。「この人とこの人に、こういう分け方でお願いしたい」という希望は、理由をそえて申立ての段階で伝えることになります。ここは弁護士や司法書士の先生に相談しながら進める部分です。

2026年の法改正で、制度が変わります

いま、成年後見制度は大きな変わり目にあります。令和8年(2026年)6月17日に見直しの法律が成立し、6月24日に公布されました(民法等の一部を改正する法律・令和8年法律第45号)。

いちばん大きな変更は、後見と保佐の制度を廃止して、補助の制度に一元化することです。いまは判断能力の程度で使える制度が決まっています。改正後は、本人に必要な行為について個別に権限を与える形になります。制度を使う必要がなくなったときに終了できる仕組みも入りました。

判断が難しい状態が続いているお子さんの場合も、受け皿は残ります。事理弁識能力を欠く常況にあると認められるときは、法律で定められた重要な財産行為をまとめて取り消せる仕組み(特定補助の仕組み)を選べるとされています。

施行日は、公布の日から2年6か月を超えない範囲で政令で定める日です。まだ決まっていません。すでに後見や保佐を利用している方は、基本的にそのまま続けられます。ただし解任の事由と、本人の意向を把握する義務については、改正後の民法が適用されます。新しい制度に移りたい場合は、あらためて補助の申立てをすることになり、いま受けている後見・保佐開始の審判は取り消されます(附則2条・3条)。

このページでご説明した仕組みは、名前を変えて残ります。補助人を追加で選べること(改正後の民法876条の2第3項)と、複数いるときに共同するか事務を分けるかを家庭裁判所が定めること(同876条の12)は、いずれも改正後の条文にあります。後見人を複数立てて備えるという考え方は、改正後も使えます。

なお、後見制度支援信託の対象は現在「成年後見と未成年後見」です。後見の制度が廃止されたあとどう扱われるかは、今後の運用で定まります。

出典:法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」。同資料によれば、令和7年12月末日時点の利用者数は、後見180,828人、保佐58,162人、補助18,078人です。任意後見2,833人を加えた合計が259,901人になります。

よくあるご質問

親が後見人になることはできますか。

できます。ただし、親も相続人である遺産分割では、親と子の利害がぶつかります。そのため、親が後見人として子を代理することはできません。家庭裁判所に特別代理人を選んでもらうことになります。後見監督人がついている場合は、その監督人が子を代理します。また、後見は何十年も続きます。親が後見人になった場合、その親が高齢になったあとをどうするかは、別に考えておく必要があります。

後見人を複数にしてほしい、と希望できますか。

申立てのときに候補者を書き、希望を伝えることはできます。ただし、決めるのは家庭裁判所です。希望どおりに選ばれるとは限りません。なぜ複数にしたいのか、どう事務を分けたいのかを、理由とあわせて伝えることになります。申立ての書き方は弁護士や司法書士の先生にご相談ください。

後見人には、ずっと報酬を払い続けるのですか。

まず押さえておきたいのは、報酬はお子さん自身の財産のなかから支払われるという点です(民法862条)。後見人から報酬付与の申立てがあったときに、家庭裁判所が審判で決めます。金額は事案ごとの判断です。東京家庭裁判所の基本報酬のめやすは月額2万円で、管理する財産が多いほど高くなります。親族が後見人の場合は、そもそも申立てをしないことが多いとされています。後見が何十年も続くことを考えると、総額でどのくらいになるかは見ておいたほうがよい項目です。

申し立ててから決まるまで、どのくらいかかりますか。

令和7年の実績では、2か月以内に終わったものが約71.1%、4か月以内が約93.8%でした(前掲・成年後見関係事件の概況)。ただし、遺産分割はお子さんを代理する人が決まるまで進められません。亡くなってから動き出すと、その分だけ全体が遅れます。

財産をどんな形で残しておくかは、また別の話になります。遺言や信託、自宅や土地の扱いについては知的障害のある子に財産を残すときにまとめました。

その他のテーマは不動産コラムにまとめています。

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