令和9年(2027年)1月1日から、決まりが変わります。相続や贈与で引き継ぐ不動産の、金額の決め方です。「5年ルール」と呼ばれている見直しです。
変わるのは、亡くなる前の5年以内に買った、または建てた、人に貸している建物とその敷地です。アパートやマンションが代表です。ただし住まいに限りません。店舗や事務所、倉庫なども対象になると見られます。どこまでが対象かは、これから国税庁の文書(通達)で決まります。
ご自宅や、5年より前から持っている物件は変わりません。対象になる場合は、これまでより高い金額で計算されます。国が令和7年12月26日に決めた税制改正の方針(大綱)に書かれました。
何が変わるのか
これまでの決め方
相続税や贈与税を計算するとき、土地と建物は売買の値段では計算しません。決められた方法で金額を出します。
多くの地域では、土地は路線価を使います。国税庁が道路ごとに決めている値段です。土地の形などに応じた調整をしたうえで、面積をかけて計算します。路線価のない地域は、別の決め方になります。
建物は、市区町村(東京23区は都)が決めている金額(固定資産税評価額)をそのまま使います。
人に貸していると、さらに差し引きがあります。貸している建物は、満室なら3割ほど引きます。その建物が建っている土地も引きますが、引く割合は建物より小さくなります。借りている方がいると、持ち主が自由に使えないためです。
この結果、実際に売り買いされる値段よりも低い金額になることが多くありました。
出典:国税庁 No.4602 土地家屋の評価/No.4602 質疑応答(貸家の計算例)/No.4614 貸家建付地の評価
令和9年1月からの決め方
対象になる不動産は、相続や贈与があったときの、実際に売り買いされる値段で計算します。
大綱には、別の計算のしかたも書かれています。買ったときの値段に、土地の値段の動きを反映させた金額の80%で計算する方法です。ただし、これが認められる場合の線引きは、まだ決まっていません。
買ってすぐに相続が起きた場合、これまでとは金額が変わります。
どの不動産が対象で、いつからか
| 持っている不動産 | 令和9年1月1日からの相続 |
|---|---|
| 5年より前に買った・建てた、貸している建物とその敷地 | 変わりません(国が決めた金額のまま) |
| 5年以内に買った・建てた、貸している建物とその敷地 | 相続・贈与のときの売買相場が基準になります |
| 不動産に小口で投資する商品の一部 | 相続・贈与のときの売買相場が基準になります(買った時期を問わず) |
| ご自宅など、人に貸していないもの | 変わりません(国が決めた金額のまま) |
※「国が決めた金額」は、路線価と固定資産税評価額を使って出す金額のことです。
※小口で投資する商品には、証券取引所で売買されるもの(REIT)は含みません。
※80%で計算する方法は、5年以内に買った不動産についての定めです。小口で投資する商品には、別の定めが置かれています。
※建物を建てずに土地だけを貸している場合は、国の方針に書かれていません。借りた方が建物を建てている土地、資材置場、青空駐車場などです。対象外と決まったわけではありません。今後の国税庁の文書を待つことになります。
※どこまでが対象になるかは、これから国税庁の文書(通達)で示されます。
5年はどこから数えるのか
亡くなった日からさかのぼって5年です。贈与の場合は、贈与した日からさかのぼって5年です。
その間に、お金を払って買ったもの、または新しく建てたものが対象です。貸し始めた時期ではありません。10年前に買った建物を去年から貸し始めた場合、買ったのは5年より前なので対象になりません。
無償で相続や贈与を受けたものは、対象にならないと考えられます。
いつからか
令和9年1月1日以後に起きた相続・贈与から、新しい決め方になります。遺言で財産を渡した場合も同じです。
買った時期で決まるのではありません。相続や贈与が起きた時期で決まります。令和8年のうちに買っても、相続が令和9年以降なら新しい決め方になります。
例外があります
もともと持っていた土地に建てた建物には、例外が用意される見込みです。
国税庁がこの取り扱いを文書で定める日までに建てた建物は、対象外になります。その日に工事中の建物も含みます。ただし、その土地を「その日の5年前から」持っていた場合に限られます。
対象外になるのは建物です。長く持っている土地は、5年以内に買ったものではありません。もともとこの見直しの対象ではないためです。
その日がいつになるかは、2026年9月の時点では公表されていません。この例外を当てにして建てる時期を決めるのは、おすすめできません。
出典:財務省 令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)二 資産課税
なぜ見直されるのか
令和7年11月13日、税の制度を話し合う国の会議で、国税庁が資料を出しました。
人に貸している不動産では、実際の売買の値段と、相続税の計算に使う金額が大きく離れます。
亡くなる直前に買われた事例では、買った値段が、相続税の計算に使う金額の3倍を超えていました。ちょうど中くらいの事例でこの倍率です。相続税を抑えることを目的とした事例を集めて調べたもので、件数は公表されていません。
国はこれまでも個別に手を打ってきました。令和5年9月には分譲マンションの決め方を見直し、令和6年1月から適用しています。ただし、一棟の賃貸マンションなどはその対象外でした。今回の見直しは、その続きにあたります。
出典:内閣府 税制調査会 専門家会合 「財産評価を巡る諸問題」(令和7年11月13日・国税庁説明資料)/国税庁 No.4667 居住用の区分所有財産の評価
元気なうちに考えておきたいこと
買う時期、建てる時期の考え方が変わります
新しい決め方では、いつ買ったかが関わってきます。必要になってから動くのでは間に合わない場面が出てきます。
買うかどうか、建てるかどうかを考えているなら、税金の見通しも合わせて判断する必要があります。税理士の先生に早めにご相談ください。
ただし、税金だけで決めるものではありません。家賃が入る見込み、借入の返済、修繕の負担。これらを合わせて判断してください。
引き継ぎ方を決めておくと、時間に追われません
相続税は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に申告し、納めます。現金で一度に納めるのが原則です。
不動産は、売ろうと決めてすぐ現金になるものではありません。買いたい方を探し、契約し、引き渡すまで、いくつもの段取りがあります。かかる期間は、物件や時期によって変わります。
どの不動産を残し、どれを現金に換えるのか。誰が引き継ぐのか。ここが決まっていれば、10か月は短い期間ではありません。
出典:国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
元気なうちに、が一番の対策かもしれません
不動産の売り買いは、持ち主ご本人にしかできません。
認知症などで判断が難しくなると、ご本人では契約ができなくなります。ご家族が代わりに進めるには、家庭裁判所での手続きが必要です。時間もかかります。
そのうえ今回の見直しで、買ってから5年という時間も関わってくるようになりました。
売るのか、残すのか。誰に引き継ぐのか。元気なうちに考えて、ご家族に伝えておく。結局のところ、それが一番の対策かもしれません。
出典:裁判所 成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ
よくあるご質問
令和8年のうちに買えば、今までの計算のままですか
いいえ。買った時期ではなく、相続や贈与が起きた時期で決まります。令和8年に買っても、令和9年1月1日以後に相続が起きれば、新しい決め方になります。
生前の贈与も対象になりますか
はい。贈与した方が、贈与の前5年以内にお金を払って買った、人に貸している不動産が対象です。不動産に小口で投資する商品は、買った時期に関係なく対象になります。
貸している部屋が空いているときはどうなりますか
大綱は「一定の」貸付用不動産を対象とする、という書き方になっています。空き部屋が多い場合や、身内に安く貸している場合をどう扱うのか。こうした点は、国税庁の文書(通達)で示されます。
いつ相談すればよいですか
不動産のことは、今からでも整理できます。いくらで売れるか。人に貸したままでも売れるか。こうした点は当社でお調べします。
税額の計算や申告は税理士の先生の領域です。お付き合いのある税理士がいらっしゃらない場合は、ご紹介もできます。
この記事は令和8年度税制改正の大綱にもとづいています。実際の取り扱いは、今後出される国税庁の文書(通達)で決まります。「5年ルール」は通称で、国が決めた方針の中では「相続税等の財産評価の適正化」という名前で載っています。
税額の判断は税理士の先生の領域です。相続に伴う不動産のご相談は、方針が固まっていない段階でも承っています。
その他のテーマは不動産コラムにまとめています。