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売りに出して2年。問い合わせはほとんどない。固定資産税と草刈りの費用だけが、毎年出ていく。「タダでもいいから、誰かにもらってほしい」。空き家を持つ人から、よく聞く言葉です。
ただ、無償で譲るのは、思ったより簡単ではありません。このページでは、譲る相手を「自治体」「個人」「法人」に分けて、受け取ってもらえる条件、かかる税と費用、進め方を説明します。
このページのポイント
- 自治体への寄付は、使い道がある土地でないと受け付けないのが一般的です。建物付きはさらに難しくなります。受け取ってもらえれば、譲る側に税はかかりません。
- 個人に無償で譲ると、もらう人に贈与税がかかることがあります。登記の税と不動産取得税もかかります。もらう人の負担を先に見せると話が進みやすくなります。
- 法人に無償で譲ると、譲った側に「時価で売ったものと見なした」所得税がかかることがあります。お金をもらっていないのに税がかかる点に注意します。
1. 相手ごとの比べ表
自治体
見込みは低い。受け取れば、譲る側にも、もらう側にも税はかからない
個人
もらう側に贈与税・登録免許税・不動産取得税
法人
譲った側に、時価で売ったと見なした所得税がかかることがある
国(国庫帰属)
条件を満たせば引き取られる。審査手数料と負担金を払う
| 相手 | 受け取ってもらえる見込み | 譲る側の税 | もらう側の税・費用 | 向いている家 |
|---|---|---|---|---|
| 自治体(市区町村など) | 低い。公共の使い道があり、境界がはっきりした更地が基本 | かからない | かからない | 道路・公園・防災用地などに使える土地 |
| 個人(隣の人、親族、移住したい人など) | 相手次第 | 原則かからない | 贈与税(年110万円を超える分)、登録免許税、不動産取得税 | 隣の人が庭や駐車場に使いたい土地 |
| 法人(会社、NPO法人など) | 相手次第 | 時価で売ったと見なされ、所得税・住民税がかかることがある | 法人の税(受け取った分が利益になる) | 事業に使える土地 |
| 国(相続土地国庫帰属制度) | 条件を満たせば引き取られる | — | 譲る側が審査手数料と負担金を払う | 建物を壊した後、相続で取得した土地 |
国の引き取りの制度は、建物があると申請できません
相続で取得した土地であることなどの条件もあります(相続土地国庫帰属制度)。
2. 自治体に寄付する
名古屋市は、土地の寄付について次のように案内しています。
受け付けられない土地の例
- 隣との境界が決まっていない土地、抵当権などが付いている土地
- 市が費用を負担することを条件にした寄付
- 管理が難しい土地、土の汚れや捨てられたごみが残っている土地、崖崩れのおそれがある土地
受け付ける条件
- 市の事業に使える土地であること
- 処分(お金に換えること)が容易と見込まれること。基本は更地で、建物付きは事前の相談が要る
1都3県でも、例えば船橋市は、道路の用地の寄付でさえ、境界が確定して境界標があること、抵当権などが付いていないこと、相続登記が済んでいることなどを条件にしています(船橋市道路用地の寄附に関する要綱)。多くの自治体で、考え方は近いものです。
「使い道がないから手放したい」土地は
自治体にとっても使い道がないことが多い、ということです。
相談するなら、物件のある市区町村の財産を管理する課(管財課など)に、地図と登記事項証明書を持って聞きます。
空き家の窓口に、空き家バンクへの登録をすすめられることもあります(空き家バンクの使い方と、向いている家)。
国や自治体への寄付に、所得税はかかりません
国や地方公共団体への寄付は、譲った人に所得税はかかりません。特に手続きも要りません(国税庁No.3108)。
3. 個人に無償で譲る
個人どうしの無償の譲り渡しは、法律では「贈与」です。
家や土地をもらった人にかかる不動産取得税の計算のしかたは、不動産取得税とはで説明しています。
もらう人にかかる税と費用
| 税・費用 | 計算の目安 | 出典 |
|---|---|---|
| 贈与税 | (その年にもらった財産の評価額の合計-110万円)×税率-控除額 | 国税庁No.4408 |
| 登録免許税(名義を移す登記の税) | 固定資産税評価額×2% | 国税庁No.7191 |
| 不動産取得税 | 土地と住宅は固定資産税評価額×3%(宅地は令和9年3月31日までに取得すれば評価額の2分の1に3%)。住宅でない建物は4% | 東京都主税局 |
| 司法書士の先生の報酬 | 見積もりで確認 | — |
売れない家でも、評価額は0円ではありません
贈与税の評価額は、土地は路線価など、建物は固定資産税評価額をもとに計算します。
譲る側の税
個人に無償で譲った場合、譲る側に所得税は原則かかりません。ただし、相手に「安く売った」場合は、相場との差額が贈与と見なされ、もらった側に贈与税がかかることがあります(相続税法7条)。
契約は必ず書面で
口約束の贈与は、引き渡しが済むまで、どちらからでも取りやめられます(民法550条)。次のことを書面にしておきます。
- 渡す土地と建物(登記の記載どおり)
- 家財や庭の物を残すか、誰が片付けるか
- 引き渡しの日と、その日までの固定資産税・管理の負担
- 雨漏りなどの傷みは「今の状態のまま」渡すこと
- 登記の費用や税を、どちらが払うか
- 境界がはっきりしているか(相続した土地の境界が分からないとき)
「今の状態のまま」を書面で
贈与した人は、原則として「贈与の目的として決めた時の状態」で渡すことを約束したものと推定されます(民法551条)。「今の状態のまま」で渡すことを、書面ではっきりさせておくと安心です。
4. 法人に無償で譲る
個人が会社などの法人に土地や建物を無償で譲ると、譲った時の時価で売ったものと見なされ、譲った人に所得税がかかります(所得税法59条、国税庁No.3108)。時価の2分の1に満たない値段で法人に売った場合も同じです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 時価(無償で譲った空き家) | 300万円 |
| 取得費(親が買った値段が分からず、時価の5%とする) | 15万円 |
| 利益 | 285万円 |
| 所得税 | 42万7,500円 |
| 復興特別所得税 | 8,977円 |
| 住民税 | 14万2,500円 |
| 税の合計 | 約58万円 |
金額は説明のための仮の例です。
法人に譲る話が出たら、必ず事前に税理士の先生へ
公益を目的とする法人への寄付で、国税庁長官の承認を受けると、この税がかからない特例もあります。条件が細かいので、法人に譲る話が出たら、必ず事前に税理士の先生に確認してください。
5. ケーススタディ:隣の人に譲るCさん

人物・数字・金額はすべて説明のための仮の例です。実際の値段ではありません。
Cさんは60代。千葉県の郊外にある実家(土地200㎡、築50年)を相続しました。2年間売りに出しましたが、買い手はつきません。固定資産税・草刈り・保険・交通費で、毎年約25万円かかっています。
そんなとき、隣の家の夫婦から「子どもが大きくなったので、庭と駐車場に使わせてもらえないか」と声がかかりました。
Cさんは、「無償で譲る」場合に、隣の夫婦にかかるお金を先に計算しました。固定資産税評価額は土地400万円・建物30万円、贈与税の評価額は土地450万円・建物30万円とします。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 贈与税 | (480万円-110万円)×20%-25万円 | 49万円 |
| 登録免許税 | (400万円+30万円)×2% | 8万6,000円 |
| 不動産取得税(土地) | 400万円×1/2×3% | 6万円 |
| 不動産取得税(建物) | 30万円×3% | 9,000円 |
| 合計(司法書士の先生の報酬を除く) | — | 64万5,000円 |
1人でもらう
贈与税 49万円
(480万円-110万円)×20%-25万円
夫婦が半分ずつ(240万円ずつ)
2人で26万円
1人(240万円-110万円)×10%=13万円。1人でもらうより23万円少ない
隣の夫婦は、この金額を見て「それなら、払う価値はある」と答えました。建物は夫婦が自分たちで壊し、更地にして使うことにしました。
Cさんが比べた数字
持ち続けた場合
- 毎年25万円
- 10年で250万円
譲る場合
- Cさんが負担:家財の片付け(業者の見積もりで確かめた額)
- Cさんが負担:境界の確認(隣どうしなので、残りの2方向の隣と道路との境を確かめる)
- その後の負担はなくなる
Cさんは、司法書士の先生に贈与契約書と登記を頼み、引き渡しの日を年末の前に決めました。
年内に名義を移した理由
固定資産税は、その年の1月1日の持ち主にかかります。年内に名義を移せば、翌年からは隣の夫婦が払います。
Cさんの決め方のコツ
- 「もらう人にいくらかかるか」を先に計算し、表にして見せた。
- 自分が負担する物(片付け・境界)と、相手が負担する物(税・解体)を分けて書面にした。
- 持ち続けた場合の10年分の費用と比べた。
相続税や名義変更も、まとめて相談したい方へ
当社は、税理士・司法書士と組んだ相続の相談窓口まとめる相続を運営しています。士業の手配や日程の調整も、窓口一つで進められます。
よくあるご質問
Q. 「0円で売る」と「無償で譲る」はちがいますか?
0円の売買は、法律では贈与と同じに扱われることが多いです。税の扱いは、どちらでも中身で判断されます。
Q. 相続放棄をすれば、家を手放せますか?
相続放棄は、預金などすべての財産をあきらめる手続きです。原則として、相続が始まったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所で手続きをします。その前に亡くなった方の財産を使ったり売ったりすると、相続したものと見なされ、放棄できなくなります(民法915条・921条)。また、放棄した時に家を実際に管理していた人は、次の人に引き渡すまで、家を守る責任が残ります(民法940条)。
Q. 空き家を引き取るという会社から連絡がきました。
手放す側がお金を払って引き取ってもらう話もあります。払う金額、引き取った後の名義の移し方、相手の会社の情報を確かめ、その場で決めないでください。困ったときは、消費者ホットライン「188」に相談できます。
Q. 兄弟で共有している家を譲るには?
共有の人全員の同意が要ります。名義が亡くなった方のままなら、先に相続登記を済ませます。司法書士の先生に相談してください。
空き家を無償で譲るときは、相手が自治体・個人・法人のどれかで、受け取ってもらえる見込みと税が大きく変わります。自治体は使い道のある土地しか受け取らないことが多く、個人には贈与税など、法人には譲る側の所得税がかかることがあります。
まずは、もらう人にかかるお金を表にして相手に見せ、自分が負担する物と相手が負担する物を書面で分けてください。税の判断は税理士の先生に、契約と登記は司法書士の先生に確認してください。
遠くの空き家の手放し方の全体は相続した土地が売れないとき、相続した空き家を放っておく危険は相続した空き家を放置すると起きることにまとめています。
出典:名古屋市「不動産の寄附(遺贈を含む)について」/国税庁 タックスアンサーNo.3108「国や地方公共団体又は公益を目的とする事業を行う法人等に財産を寄附したとき」/国税庁 タックスアンサーNo.4408「贈与税の計算と税率(暦年課税)」/国税庁 タックスアンサーNo.7191「登録免許税の税額表」/東京都主税局「不動産取得税」/e-Gov法令検索「民法」第549条〜551条・第915条・第921条・第940条/e-Gov法令検索「所得税法」第59条/e-Gov法令検索「所得税法施行令」第169条/e-Gov法令検索「相続税法」第7条/船橋市「船橋市道路用地の寄附に関する要綱」/法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」
その他のテーマは不動産コラムにまとめています。