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台風の翌朝、実家の近所の人から電話がきた。「お宅の瓦が、うちの車の前に落ちていましたよ」。けが人がいなくて、ほっとした。でも、もし人に当たっていたら。
このページでは、空き家が近所に損害を与えたときの持ち主の責任、試算された賠償の額、事故を防ぐための点検の順番を説明します。保険の入り方は空き家の火災保険|入れる保険と、断られたときにまとめているので、ここでは「責任の中身」と「防ぎ方」に絞ります。
このページのポイント
- 建物や塀の造りや手入れに問題があって人に損害を与えると、まず占有者(実際に管理している人)が賠償します。占有者が注意を尽くしていれば、持ち主が賠償します。持ち主は、落ち度がなくても責任を負います(民法717条)。
- 試算では、外壁材の落下で子どもが亡くなる事故の損害額が約5,630万円、空き家からの出火で隣の夫婦が亡くなる事故の損害額が約6,375万円です。火事は、持ち主がこの額を払うとは限りません。
- 屋根・外壁・塀・木・付いている物を、部分ごとに点検し、「人の通る側」から直します。
このページの内容
1. 持ち主の責任の決まり
民法717条は、次のように決めています。つまり、管理している人がまず払います。空き家では、それが持ち主であることが多いです。
| 1項 | 土地の工作物(建物・塀など)の設置や保存に欠陥があって他人に損害を与えたら、占有者が賠償する。占有者が損害を防ぐのに必要な注意をしていたときは、持ち主が賠償する |
|---|---|
| 2項 | 木の植え方や支え方に欠陥がある場合も同じ |
| 3項 | 損害の原因を作った人がほかにいれば(工事の不良など)、その人に払った分を求められる |
まず、占有者(実際に管理している人)が賠償する
ただし、損害を防ぐのに必要な注意をしていたときは、次の段へ。
持ち主が賠償する
持ち主には「注意していたから責任はない」という言い分がありません。
空き家では、持ち主自身が管理していることが多い
その場合は、持ち主が責任を負う立場になります。
相続人が何人かで共有している家は、共有の人それぞれが責任を問われることがあります。
火事の場合
失火責任法という法律があります
火事で隣の家を焼いてしまった場合は、「重大な過失(ひどい不注意)」がなければ賠償の責任を負わないという法律があります(失火責任法)。
ただ、傷んだ電気の配線を放置していたなど、管理の状態によって判断が分かれることがあります。個別のことは弁護士の先生に確認してください。
行政からの指導
近所に危険を与える状態の空き家は、市区町村から「管理不全空家等」「特定空家等」として指導や勧告を受けることがあります。
命令に従わないと
- 特定空家等として命令を受けて従わないと、50万円以下の過料
- 市区町村が代わりに壊した費用を請求されることもある
(空家等対策の推進に関する特別措置法)くわしくは管理不全空家とは|固定資産税が上がる前にやることで説明しています。
2. 損害はいくらになるか(試算)
公益財団法人日本住宅総合センターが、空き家が原因の事故の損害額を試算しています。
約5,630万円
外壁材などが落ち、通りがかった11歳の男の子が亡くなる
約6,375万円
空き家から火が出て隣の家が全焼し、夫婦が亡くなる
内訳は、次のとおりです。
| 内訳 | 外壁材などの落下 | 空き家からの火事 |
|---|---|---|
| 亡くならなければ得られた収入 | 3,400万円 | 800万円 |
| 慰謝料 | 2,100万円 | 4,000万円 |
| 葬儀費用 | 130万円 | 260万円 |
| 物の損害 | ― | 1,315万円(住宅900万円、家財280万円、解体・処分135万円) |
| 合計 | 約5,630万円 | 約6,375万円(人の損害5,060万円+物の損害1,315万円) |
試算の数字の読み方
これは損害の額の試算です。火事の場合は前の失火責任法があるため、持ち主が必ずこの全額を払うという意味ではありません。
人の命に関わる事故は、どれだけお金を払っても取り戻せません。試算の数字は、「防ぐための費用は高くない」と考える材料にしてください。
3. 部分ごとの点検表
年に2回、次の表で点検します。自分で見られない高い所は、工務店や屋根の職人に頼みます。
夏
台風の前
秋
雪や強い風の前
| 部分 | 見る所 | 危ないサイン | 人に近い順の目安 |
|---|---|---|---|
| ブロック塀 | 高さ、ひび、傾き、控え壁 | 傾いている、ひびが斜めに入っている、高さ2.2mを超える、控え壁がない | 道に面していれば最優先 |
| 屋根 | 瓦・板金のずれ、棟(屋根のてっぺん)の崩れ | 瓦が浮いている、板金がめくれている | 道や隣に面した側から |
| 外壁 | 外壁材の浮き・はがれ、モルタルのひび | 叩くと軽い音がする、ふくらんでいる | 2階の道側 |
| 雨どい・アンテナ | 金具のゆるみ | 傾いている、ワイヤーが切れている | 強い風の前に |
| 庭木 | 枝の張り出し、枯れ枝、幹の傷み | 道や隣の屋根にかかっている、枯れている | 台風の前に(空き家の庭木・雑草) |
| 門扉・フェンス | さび、ぐらつき | 押すと揺れる | 道に面していれば早めに |
| 窓・ガラス | 割れ、雨戸のがたつき | 割れたまま、雨戸が外れかけている | 風の前に |
ブロック塀の基準と補助
ブロック塀は、建築基準法施行令で、高さ2.2m以下、一定の長さごとに控え壁を設けることなどが決められています。昔の塀は、今の基準に合っていないことがあります。
多くの市区町村で、道に面したブロック塀を壊す費用の補助があります。物件のある市区町村に確かめてください。
4. ケーススタディ:点検して直す順番を決めたDさん

説明のための仮の例です。
Dさんは50代。東京都内に住み、埼玉県にある築48年の実家を相続しました。実家は小学校への通学路に面しています。Dさんは、台風の前に工務店に点検を頼みました。
点検の結果と、見積もりで確かめたこと
| 部分 | 状態 | 直し方 | 見積もりで確かめたこと |
|---|---|---|---|
| 道に面したブロック塀(高さ1.8m、長さ12m) | 控え壁がなく、少し傾いている | 壊して、軽いフェンスに替える | 壊す費用とフェンスの費用の内訳。市の補助の対象になる部分 |
| 道側の屋根の瓦 | 数枚が浮いている | 部分的に直す | 足場が要るか |
| 道にかかった庭木の枝 | 枯れ枝がある | 剪定 | 切った枝の処分が入っているか |
| 2階の外壁 | ひびはあるが浮きはない | 様子を見る(次の点検で再確認) | ― |
Dさんは、次の考え方で順番を決めました。
- 1塀人の通る側で、崩れると命に関わる物を最初に直す
- 2瓦・枯れ枝次に、落ちると人に当たる物
- 3外壁のひびすぐに危なくない物は、記録して次の点検で見る
最初の考え
売るまでの間だから、お金をかけたくない
この家は2〜3年のうちに売るつもり。
判断
通学路に面した塀は直す
売るまでの間にも子どもが毎日通る。塀を直す見積もりは、補助を使った後の自己負担で見ても、試算の数千万円の賠償と比べれば、ずっと小さい。
あわせて、空き家に付けている保険が、周りへの賠償まで対象になっているかを、保険証券で確かめました(空き家の火災保険)。
Dさんの決め方のコツ
- 「人の通る側」「崩れると命に関わる物」から順に直した。
- 市区町村の補助を先に調べ、見積もりの前に申し込みの順番を確かめた。
- 直さなかった所も、写真と日付で記録した。
5. もし損害を与えてしまったら
落ち着いて、次の順に動きます。
1. けが人がいれば救急車(119)
道をふさいでいれば警察(110)にも連絡します。
2. 人が近づかないよう囲う
落ちた物・壊れた所を、ロープなどで囲います。
3. 現場の写真を撮る
いろいろな向きから、日付が分かるように撮ります。
4. 被害を受けた人に、まず心を込めておわびする
5. 保険会社に連絡する
賠償の額を、その場で約束しません。
6. 応急の修理を工務店に頼む
7. 話し合いが難しいときは、弁護士の先生に相談する
「その場で約束しない」の意味
相手を軽く見るという意味ではありません。保険で払える範囲や、正しい額を確かめてから、誠実に話し合うためです。
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よくあるご質問
Q. 台風や地震で壊れた場合も、責任がありますか?
ふつうの備えでは防げないほどの大きな災害なら、責任を負わないこともあります。ただ、もともと傷んでいた所が壊れた場合は、責任を問われることがあります。個別のことは弁護士の先生に確認してください。
Q. 相続の手続きがまだで、名義が親のままです。
相続人は、相続した時から家を共有しています(民法898条)。名義が親のままでも、相続人が責任を問われることがあります。早めに相続登記を済ませ、誰が管理するかを決めてください。
Q. 管理を業者に頼んでいれば、責任はなくなりますか?
持ち主の責任は残ります。業者には、点検の結果を写真で報告してもらい、危ない所があれば早めに直してください(空き家の管理を業者に頼む)。
Q. 隣の木が空き家に倒れてきそうです。
自分の側に被害が出そうなときは、まず隣の持ち主に連絡します。越えてきた枝の扱いは空き家の庭木・雑草|近所からの苦情と対処で説明しています。
空き家が近所に損害を与えると、持ち主は落ち度がなくても賠償の責任を負うことがあります。試算では、人が亡くなる事故の賠償は数千万円にのぼります。
まず、上の点検表で「人の通る側」から見て回り、塀・屋根・枝の順に直す計画を立ててください。あわせて、保険が周りへの賠償まで対象になっているかを確かめると安心です。責任の判断に迷ったときは、弁護士の先生に確認してください。
相続した空き家を放っておく危険の全体は、相続した空き家を放置すると起きること|特定空家と固定資産税にまとめています。
出典:e-Gov法令検索「民法」第717条・第898条/e-Gov法令検索「失火ノ責任ニ関スル法律」/e-Gov法令検索「空家等対策の推進に関する特別措置法」第22条・第30条/e-Gov法令検索「建築基準法施行令」第62条の8/大田区「空家の維持管理」(日本住宅総合センターの損害額の試算)/埼玉県空き家・所有者不明土地対策連絡会議「空き家をお持ちの方へ(損害額の試算例)」
その他のテーマは不動産コラムにまとめています。