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確定申告の書類に「減価償却費」という欄があります。アパートを相続した方が、まずつまずく所です。言葉は難しそうですが、考え方は単純です。「建物の代金を、使える年数に分けて、少しずつ経費にする」。これだけです。
ただ、相続したアパートには、自分で新しく計算し直せないという決まりがあります。このページでは、その点を中心に、8戸のアパートで実際に計算して見せます。個別の計算と申告は、税理士の先生に確かめてください。
このページのポイント
- 建物は、買った年に全額を経費にできません。国が決めた年数(耐用年数)に分けて、毎年同じ額を経費にします(定額法)。
- 相続したアパートは、親の「取得価額・耐用年数・すでに経費にした分」をそのまま引き継ぎます。自分で年数を見積もり直すことはできません。
- 償却が終わると、お金の出入りは同じでも経費だけが減り、税金が増えます。終わる年を先に知っておきます。
このページの内容
1. 減価償却とは「代金を何年かに分けて経費にすること」
アパートを2,000万円で建てたとします。
もし建てた年に全部経費にすると
その年だけ大きな赤字
次の年からは、建物を使って家賃を得ているのに、経費がありません
税金の計算では
使える年数に分けて経費にする
これが減価償却です
国税庁は、建物の償却の方法を「定額法」としています。定額法は、毎年ほぼ同じ額を経費にするやり方です。
計算式は1つです
1年の償却費 = 取得価額(建物の代金)× 定額法の償却率
年の途中から貸した年や、途中で手放した年は、使った月数で割ります。
その年の償却費 = 1年の償却費 ÷ 12 × 使った月数
最後の年は、帳簿に1円だけ残して終わります。
2. 減価償却になるもの・ならないもの
| 対象 | 減価償却するか | 理由 |
|---|---|---|
| 建物 | する | 年数とともに古くなる |
| 建物附属設備(給排水・電気・ガスの設備など) | する | 建物とは別の年数で償却することがある |
| 土地 | しない | 古くならない |
| 借入金の元本の返済 | しない | 費用ではない |
土地は、何年たっても減価償却しません
建物と土地を一緒に買ったときは、代金を建物と土地に分けて、建物の分だけを償却します。
3. 耐用年数と償却率の表
耐用年数は、国が「この種類の建物は何年使える」と決めた年数です。実際に何年もつかとは関係ありません。住宅用の建物と、主な建物附属設備の年数は次のとおりです。
| 構造・種類 | 耐用年数 | 定額法の償却率 |
|---|---|---|
| 木造(住宅用) | 22年 | 0.046 |
| 木骨モルタル造(住宅用) | 20年 | 0.050 |
| 鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造(住宅用) | 47年 | 0.022 |
| 金属造・骨格材の厚さ4mm超(住宅用) | 34年 | 0.030 |
| 金属造・骨格材の厚さ3mm超4mm以下(住宅用) | 27年 | 0.038 |
| 金属造・骨格材の厚さ3mm以下(住宅用) | 19年 | 0.053 |
| 建物附属設備(給排水・衛生設備、ガス設備) | 15年 | 0.067 |
「金属造」は、いわゆる鉄骨造です
骨組みの鉄の厚さで年数が変わるので、建てたときの図面で確かめます。
4. 中古で買ったとき・相続したときの違い
ここが、相続したアパートでいちばん大事な所です。
| 手に入れ方 | 耐用年数 | 取得価額 |
|---|---|---|
| 新しく建てた | 表の年数(木造なら22年) | 建てた代金 |
| 中古で買った | 残りの年数を見積もれる(簡便法など) | 買った代金 |
| 相続した | 親の年数をそのまま引き継ぐ | 親の取得価額をそのまま引き継ぐ |
中古で買った建物には「簡便法」という計算が使えます。たとえば木造で22年をすべて過ぎた建物なら、22年×20%=4.4年、端数を切り捨てて4年で償却できます。
相続した建物には、この簡便法は使えません
国税庁の質疑応答事例では、相続した賃貸用の建物は、亡くなった方の「取得価額、耐用年数、経過年数、未償却残高」を引き継いで計算するとされています。未償却残高とは、まだ経費にしていない残りの額のことです。
つまり、相続した人の計算は「親の続き」です。親がすでに22年分を償却し終えていれば、相続した人が経費にできる建物の償却費は、もうありません。
5. 親の申告書から、4つの数字を拾う
相続したら、まず親の過去の確定申告書の控えを探してください。青色申告なら「青色申告決算書」、白色なら「収支内訳書」に、減価償却費の計算の欄があります。そこから、次の4つを書き写します。
| 拾う数字 | どこを見るか |
|---|---|
| 取得価額 | 建物の欄の「取得価額」 |
| 取得した年月 | 「取得年月」 |
| 耐用年数・償却率 | 「耐用年数」「償却率」 |
| 前の年の終わりの残り | 「未償却残高(期末残高)」 |
控えが見つからないときは、税務署で見られます
税務署の「申告書等閲覧サービス」で、相続人が亡くなった方の申告書を見られます。
- 相続人全員が分かる戸籍など(または法定相続情報一覧図の写し)
- ほかの相続人全員の委任状(実印を押したもの)・印鑑登録証明書
コピーはもらえませんが、書き写しや、条件を守っての写真撮影はできます。
6. ケーススタディ:8戸のアパートを相続したAさん
※説明のための仮の例です。
Aさんは、木造アパート(1K・8戸・家賃6.5万円)を相続しました。父が2008年4月に新しく建て、同じ月から貸していました。父は2025年9月に亡くなり、Aさんが引き継ぎました。父の申告書から、次の数字を拾いました。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 建物の取得価額 | 1,600万円(土地は別) |
| 耐用年数・償却率 | 木造22年・0.046 |
| 1年の償却費 | 16,000,000円×0.046=736,000円 |
① 父が亡くなるまでに経費にした額
| 年 | 計算 | 償却費 |
|---|---|---|
| 2008年(4〜12月の9か月) | 736,000円÷12×9 | 552,000円 |
| 2009〜2024年(16年) | 736,000円×16 | 11,776,000円 |
| 2025年(父・1〜9月の9か月) | 736,000円÷12×9 | 552,000円 |
| 合計 | 12,880,000円 |
亡くなった時の残り(未償却残高)は、16,000,000円−12,880,000円=3,120,000円です。父の2025年分(1〜9月)は、Aさんたち相続人が出す準確定申告で経費にします。
② Aさんが経費にする額
国税庁の質疑応答事例では、亡くなった月を、亡くなった方と相続人の両方で1か月として数えています。これにならうと、Aさんの2025年分は9〜12月の4か月です。
| 年 | 計算 | 償却費 | 年末の残り |
|---|---|---|---|
| 2025年(Aさん・9〜12月) | 736,000円÷12×4 | 245,333円 | 2,874,667円 |
| 2026年 | 1年分 | 736,000円 | 2,138,667円 |
| 2027年 | 1年分 | 736,000円 | 1,402,667円 |
| 2028年 | 1年分 | 736,000円 | 666,667円 |
| 2029年 | 残りから1円を引いた額 | 666,666円 | 1円 |
| 2030年以降 | ― | 0円 | 1円 |
※1円未満は切り捨て。金額は説明のための仮の例です。
③ 税金がいくら軽くなっているか
減価償却費は、お金が出ていかないのに経費になります。Aさんの所得税の税率は23%の段です(大家の確定申告|不動産所得の計算のケース。給料と合わせた課税所得が695万円を超えるため)。
約17万円
所得税・復興特別所得税
約7万円
住民税(目安10%)
約25万円
合わせて1年に
※所得税・復興特別所得税:736,000×23%×1.021=172,835円。
④ 2030年から何が起きるか
2029年まで
償却費 736,000円が経費
家賃・修繕費・ローンの返済は同じ
2030年から
償却費 0円
経費だけが736,000円減り、税金は年に約25万円増える
※ほかの収入や税率が今と同じ場合。手元に残るお金は、その分だけ減ります。
Aさんは、2026年のうちに次の3つを決めました。
- 1税金の増え方を試算2030年以降の税金の増え方を、税理士の先生に試算してもらう
- 2工事の前に相談2027年に予定している外壁などの工事が、修繕費になるか、新しく償却する資本的支出になるかを、工事の前に相談する
- 3控えを残す父の申告書の控えを、閲覧サービスで写真に撮り、ファイルにまとめる

7. 新しい工事をしたときは、別に償却を始める
相続の後に、大きな工事をすることがあります。
建物
親の続きで償却
終われば0円
資本的支出の工事
別に新しく償却を始める
建物の値打ちを上げる、長持ちさせる工事
修繕費になるか、資本的支出になるかの物差しは賃貸の経費になるもの・ならないもので説明しています。外壁や屋根の工事の時期はアパートの大規模修繕|外壁・屋上の時期にまとめています。
よくあるご質問
Q. 償却が終わった建物は、価値がゼロということですか?
いいえ。税金の計算で経費にし終えただけです。建物を使い続けることも、貸し続けることもできます。
Q. 相続税の評価額で、取得価額を決め直せますか?
できません。相続した建物の取得価額は、亡くなった方の取得価額を引き継ぎます。
Q. 親が申告で償却をしていなかった年があります。
経費にしなかった年の分を、後でまとめて経費にすることはできないとされています。どう直すかは、税理士の先生に確かめてください。
Q. 共有で相続したときは、どう分けますか?
原則として、持ち分に応じて分けます。くわしくは税理士の先生に確かめてください。所得の計算は大家の確定申告|不動産所得の計算で説明しています。
減価償却は、建物の代金を年数に分けて経費にする仕組みです。相続したアパートは、親の計算の続きから始まります。まず親の申告書から4つの数字を拾い、償却が終わる年を確かめてください。終わる年から税金が増えることを、今のうちに計画に入れておきましょう。
出典:国税庁 タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」、国税庁 タックスアンサー No.2106「定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)」、国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」、国税庁 タックスアンサー No.2108「中古資産の耐用年数」、国税庁 質疑応答事例「相続により取得した中古資産の耐用年数」、国税庁 質疑応答事例(相続で取得した木造アパートの償却費の計算例)、国税庁「申告書等閲覧サービスの実施について」
その他のテーマは不動産コラムにまとめています。