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雨漏り・水漏れで入居者に損害が出たとき|原因で分ける「だれが払うか」と最初の72時間

公開日

アパートの一室で、50代の大家さんが天井のしみを見上げながら、20代の入居者の男性の話をうなずいて聞き、足もとにはタオルを敷いたバケツが置かれている絵。

「天井から水が落ちてきました」。入居者からこんな電話が来たら、大家さんは何から手を付ければよいでしょうか。まず止める。次に原因を確かめる。そして、だれが何を払うかを決める。この順番を守ると、あとでもめにくくなります。

だれが払うかは、水がどこから来たかで変わります。屋根や外壁、建物の中の配管の傷みなら、大家さんが負うのが基本です。上の階の入居者が洗濯機のホースを外したなら、その入居者が負うのが基本です。このページでは、原因ごとの負担の分け方、最初の72時間にすること、家賃の減額、保険の使い分けを、計算例でまとめます。責任の判断が難しいときは、弁護士の先生に相談してください。

このページのポイント

  • だれが払うかは「原因」で決まります。建物・設備の傷みは大家さん、入居者の不注意はその入居者が負うのが基本です。
  • 最初の72時間で、水を止める・写真を撮る・保険会社に連絡する・入居者に書面で知らせる、の4つを済ませます。
  • 部屋の一部が使えなかった日数分は、家賃が下がります(民法611条)。日割りの計算を先に示すと話が早くなります。

1. 法律の決まり:大家さんが負う3つの理由

大家さんが入居者の損害を負う根拠は、主に次の3つです。

条文決まり水漏れでの意味
民法606条大家さんは、貸している物を使えるように修繕する義務を負う。入居者のせいで壊れたときは除く屋根・外壁・配管の傷みは、大家さんが直す
民法415条約束どおりにしなかったことで相手に損害が出たら、賠償する。責めのない事情なら除く直すのが遅れて家財がぬれたら、大家さんが賠償を求められることがある
民法717条建物などの「設置や保存」に欠陥があって人に損害が出たら、まず占有者(使っている人)、占有者が注意を尽くしていれば所有者が賠償する建物の欠陥による損害は、最後は所有者である大家さんが負う。所有者は「注意していた」と言っても逃れられない
717条のポイントは、所有者の責任が重いことです

占有者(使っている人)

逃げ道がある

「必要な注意をした」と示せば、責任を免れます。

所有者(大家さん)

逃げ道がない

過失がなくても負う、という意味です。

建物の傷みが原因なら、「知らなかった」では済みません

なお、屋根や壁の中の配管のように入居者が手を出せない所は、大家さん自身が占有者として扱われることもあります。どちらにしても、建物の傷みの責任は大家さんに来る、と覚えておけば足ります。

入居者の不注意が原因のときは

その入居者が、被害を受けた人に賠償するのが基本です。大家さんの役目は、払う人ではなく、間に立って事実をそろえる人になります。

2. 原因で分ける「だれが払うか」

原因の例主に負う人主に使う保険(目安)
屋根・外壁・ベランダの防水の傷みによる雨漏り大家さん建物の火災保険(雨漏りそのものは対象外のことが多い)、大家さんの賠償責任保険
壁の中・床下の給水管や排水管の傷み大家さん建物の火災保険の水濡れ補償、大家さんの賠償責任保険
台風で屋根が飛ぶなど、急な事故大家さん(建物の修理)建物の火災保険の風災補償
上の階の入居者の洗濯機ホース外れ・風呂のあふれ上の階の入居者上の階の入居者の個人賠償責任保険
入居者が排水口に物を詰まらせたその入居者その入居者の借家人賠償・個人賠償
原因が分からない調査の結果で決まるまず大家さん側の保険会社に相談

保険の名前や中身は契約ごとに違います

「水濡れ」「賠償責任」が付いているかどうかは、手元の証券で確かめてください。保険の選び方は、賃貸物件の火災保険と施設賠償で説明しています。

ここで大事なのは、入居者自身の家財の損害の受け方です。次の流れがあります。

被害を受けた入居者には、両方の道を説明します
  1. 1入居者の家財保険で受けるまず、被害を受けた入居者自身の保険で
  2. 2原因を作った側に請求あとで請求する流れがある
  3. 3大家さんから説明する「だれが払うのか」で困らないように

3. 最初の72時間にすること

時間すること気を付ける点
すぐ(1時間以内)上の階の部屋や元栓で水を止める。電気製品の近くなら、ブレーカーを落とすよう伝える上の階が留守なら、管理会社や水道業者と立ち会って入る。入居者に連絡を試みた記録を残す
当日ぬれた所、天井のしみ、家財の写真を撮る。日付の入る形で残す入居者の家財も、捨てる前に写真を撮ってもらう
当日〜翌日自分の保険会社に連絡する。上の階の入居者が原因らしいときは、その人にも保険会社への連絡を頼む「全部こちらで払います」とその場で言わない。原因が決まってから
2〜3日以内水道業者・工務店に原因を調べてもらい、報告を書面でもらう原因の報告書が、保険と話し合いの土台になる
3日以内被害を受けた入居者に、分かったことと今後の予定を書面で知らせる天井を開けて乾かす期間、工事の日程の見込みを書く

部屋に入るときの決まり(標準契約書)

  • 大家さんが修繕をするときは、あらかじめ入居者に知らせる(第9条)
  • 部屋に入るときは、入居者の承諾を得るのが原則(第16条)
  • 水が下の階に漏れ続けているなど急ぐときは、承諾を得ずに入れる。入居者が留守のときに入ったら、入ったあとで知らせる(第16条4項)

急ぐときでも、できるだけ入居者に声をかけ、立ち会ってもらうのが基本です。

4. 部屋が使えなかった分の家賃

民法611条は、入居者のせいでなく部屋の一部が使えなくなったら、使えない割合に応じて家賃が下がる、と決めています。

減額は、条文上は当然に下がる書き方です

よくある思い込み

入居者が求めて初めて下がる

民法611条の書き方

当然に下がる

だから、大家さんの方から計算を示すと、入居者の信頼を得やすくなります。

計算は「使えなかった日数」×「使えなかった割合」

割合に法律で決まった物差しはないので、入居者と話して決めます。話し合いの手がかりとして、業界団体が出している目安の表(雨漏りで使える所が限られるときは5〜50%など)を、設備が壊れたときの大家の修繕義務で紹介しています。

5. ケーススタディ:103号室の天井から水が落ちてきたAさん

※説明のための仮の例です。

Aさんは、木造アパート(1K・8戸・家賃6.5万円)を相続しました。築18年です。ある土曜の夜、103号室の入居者から「天井から水が落ちている」と電話がありました。

① すぐにしたこと

真上の203号室に電話すると、入居者が在宅で、洗濯機の給水ホースが外れていたと分かりました。蛇口を閉めてもらい、水は30分ほどで止まりました。Aさんは103号室の入居者に、天井近くのコンセントを使わないよう伝え、翌朝訪ねる約束をしました。

② 翌日に確かめたこと

確かめたこと分かったこと
103号室の被害天井のしみ、床の一部がぬれた。入居者のノートパソコンと布団がぬれた
原因203号室の洗濯機ホースの外れ(入居者本人も認めている)
建物の被害103号室の天井板の張り替えが要りそう
203号室の保険入居のときに入った保険に、個人賠償責任の補償が付いていた

③ だれが何を払うかを整理した表

損害主に負う人受ける保険
103号室の入居者のパソコン・布団203号室の入居者203号室の入居者の個人賠償責任
103号室の天井板(建物)203号室の入居者203号室の入居者の保険。足りなければ、Aさんの建物の保険の水濡れ補償を相談
工事の間の103号室の家賃Aさんが減額(あとで203号室側に求められるかは保険会社と相談)―

④ 家賃の減額の計算

天井を開けて乾かし、張り替えるまで、7日かかる見込みでした。その間、103号室の入居者は部屋で寝起きできますが、部屋の半分ほどは使えません。Aさんは、入居者と話して、使えなかった割合を5割としました。

計算金額
1日あたりの家賃65,000円÷30日=約2,167円
7日分2,167円×7日=約15,167円
5割として15,167円×0.5=約7,583円
次の月の家賃から引く額

7日

使えなかった日数

5割

使えなかった割合

7,600円

次の月の家賃から引くと書面で伝えた額

※日数・割合・金額は、説明のための仮の例です。

業界団体の目安の表には、修理にふつうかかる日数は減らさない「免責日数」の考え方もあります。Aさんは、入居者が夜中に被害を受けたことを考え、初日から数えることにしました。

⑤ もし原因が建物の配管だったら

もし、ホースではなく、壁の中の給水管の傷みが原因だったら、Aさんの負担になります。

原因が建物の配管なら、大家さんの保険で

パソコンと布団

Aさんの賠償責任保険を、保険会社と相談する

天井板と配管

建物の火災保険の水濡れ補償で受けられるかを確かめる

Aさんはこの件をきっかけに、築18年の建物の給水管・排水管を、次の点検のときに見てもらうことにしました。

6. 雨漏りを早く見つけるための年2回の見回り

日の差すアパートの一室で、脚立に乗った作業着の職人が天井を見ており、その下で50代の大家さんと20代の入居者の男性が並んで見守っている絵。

雨漏りは、見つけるのが遅れるほど、入居者の損害が大きくなります。大きな工事はアパートの大規模修繕|外壁・屋上の時期で扱うので、ここでは見回りで確かめる所に絞ります。

時期見る所見つけたら
梅雨の前(5月ごろ)屋根の板のずれ、雨どいの詰まり、ベランダの排水口のごみ雨どい・排水口は掃除。屋根は業者に見てもらう
台風のあと(9〜10月ごろ)外壁のひび、窓まわりのすき間、共用廊下の天井のしみ写真を撮り、業者に相談
入居者の退去のとき天井・押し入れの上のしみ、洗濯機置き場の床次の入居の前に直す

入居のときの一言も効きます

「天井にしみが出たら、小さくてもすぐ知らせてください」と、入居のときにお願いしておきます。修繕の分担の全体は、設備が壊れたときの大家の修繕義務で説明しています。

よくあるご質問

Q. 入居者から「パソコンの代金を全部払ってほしい」と言われました。

賠償は、ふつう、ぬれた時点での物の価値(使った年数を引いた額)で考えます。新品の代金がそのまま出るとは限りません。保険会社の査定をもとに話してください。原因が上の階の入居者なら、その人の保険会社とのやりとりになることを説明します。

Q. 上の階の入居者が、保険に入っていませんでした。

その入居者が自分で払うのが基本です。大家さんは、両方の入居者が話せるよう間に立ちますが、代わりに払う義務があるわけではありません。話がまとまらないときは、弁護士の先生に相談するよう勧めてください。

Q. 雨漏りの修理が終わるまで、ホテルに泊まりたいと言われました。

部屋で寝起きできないほどなら、宿泊費をどうするかを話し合います。部屋が全く使えない日の家賃は、もらわないのが基本と考えてください(一部が使えないときの減額を決めた民法611条の考え方を、全部に当てはめた扱いです)。法律でどう扱われるかは事情で変わるので、個別には弁護士の先生にご確認ください。宿泊費を出すかどうかは、保険で受けられるかを先に保険会社に確かめてください。

Q. 入居者が自分で業者を呼んで直し、費用を請求してきました。

大家さんに知らせたのに、ほどよい期間(相当の期間)のうちに直さなかったとき、または急ぐときは、入居者が自分で直すことができます(民法607条の2)。かかった費用のうち必要な分は、大家さんにすぐ請求できます(民法608条)。連絡を受けたらすぐ動くことが、何よりの予防になります。

雨漏り・水漏れの損害は、原因で負う人が決まります。建物と設備の傷みは大家さん、入居者の不注意はその入居者が負うのが基本です。最初の72時間で、止める・撮る・保険会社に知らせる・入居者に書面で知らせる、を済ませてください。

使えなかった日数分の家賃は、大家さんの方から計算を示すと、話が穏やかに進みます。

出典:民法 第415条・第606条・第607条の2・第608条・第611条・第717条(e-Gov法令検索)/国土交通省「賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)」/法務省「2020年4月1日から 賃貸借契約に関する民法のルールが変わります」

その他のテーマは不動産コラムにまとめています。

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