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「天井から水が落ちてきました」。入居者からこんな電話が来たら、大家さんは何から手を付ければよいでしょうか。まず止める。次に原因を確かめる。そして、だれが何を払うかを決める。この順番を守ると、あとでもめにくくなります。
だれが払うかは、水がどこから来たかで変わります。屋根や外壁、建物の中の配管の傷みなら、大家さんが負うのが基本です。上の階の入居者が洗濯機のホースを外したなら、その入居者が負うのが基本です。このページでは、原因ごとの負担の分け方、最初の72時間にすること、家賃の減額、保険の使い分けを、計算例でまとめます。責任の判断が難しいときは、弁護士の先生に相談してください。
このページのポイント
- だれが払うかは「原因」で決まります。建物・設備の傷みは大家さん、入居者の不注意はその入居者が負うのが基本です。
- 最初の72時間で、水を止める・写真を撮る・保険会社に連絡する・入居者に書面で知らせる、の4つを済ませます。
- 部屋の一部が使えなかった日数分は、家賃が下がります(民法611条)。日割りの計算を先に示すと話が早くなります。
このページの内容
1. 法律の決まり:大家さんが負う3つの理由
大家さんが入居者の損害を負う根拠は、主に次の3つです。
| 条文 | 決まり | 水漏れでの意味 |
|---|---|---|
| 民法606条 | 大家さんは、貸している物を使えるように修繕する義務を負う。入居者のせいで壊れたときは除く | 屋根・外壁・配管の傷みは、大家さんが直す |
| 民法415条 | 約束どおりにしなかったことで相手に損害が出たら、賠償する。責めのない事情なら除く | 直すのが遅れて家財がぬれたら、大家さんが賠償を求められることがある |
| 民法717条 | 建物などの「設置や保存」に欠陥があって人に損害が出たら、まず占有者(使っている人)、占有者が注意を尽くしていれば所有者が賠償する | 建物の欠陥による損害は、最後は所有者である大家さんが負う。所有者は「注意していた」と言っても逃れられない |
占有者(使っている人)
逃げ道がある
「必要な注意をした」と示せば、責任を免れます。
所有者(大家さん)
逃げ道がない
過失がなくても負う、という意味です。
建物の傷みが原因なら、「知らなかった」では済みません
なお、屋根や壁の中の配管のように入居者が手を出せない所は、大家さん自身が占有者として扱われることもあります。どちらにしても、建物の傷みの責任は大家さんに来る、と覚えておけば足ります。
入居者の不注意が原因のときは
その入居者が、被害を受けた人に賠償するのが基本です。大家さんの役目は、払う人ではなく、間に立って事実をそろえる人になります。
2. 原因で分ける「だれが払うか」
| 原因の例 | 主に負う人 | 主に使う保険(目安) |
|---|---|---|
| 屋根・外壁・ベランダの防水の傷みによる雨漏り | 大家さん | 建物の火災保険(雨漏りそのものは対象外のことが多い)、大家さんの賠償責任保険 |
| 壁の中・床下の給水管や排水管の傷み | 大家さん | 建物の火災保険の水濡れ補償、大家さんの賠償責任保険 |
| 台風で屋根が飛ぶなど、急な事故 | 大家さん(建物の修理) | 建物の火災保険の風災補償 |
| 上の階の入居者の洗濯機ホース外れ・風呂のあふれ | 上の階の入居者 | 上の階の入居者の個人賠償責任保険 |
| 入居者が排水口に物を詰まらせた | その入居者 | その入居者の借家人賠償・個人賠償 |
| 原因が分からない | 調査の結果で決まる | まず大家さん側の保険会社に相談 |
保険の名前や中身は契約ごとに違います
「水濡れ」「賠償責任」が付いているかどうかは、手元の証券で確かめてください。保険の選び方は、賃貸物件の火災保険と施設賠償で説明しています。
ここで大事なのは、入居者自身の家財の損害の受け方です。次の流れがあります。
- 1入居者の家財保険で受けるまず、被害を受けた入居者自身の保険で
- 2原因を作った側に請求あとで請求する流れがある
- 3大家さんから説明する「だれが払うのか」で困らないように
3. 最初の72時間にすること
| 時間 | すること | 気を付ける点 |
|---|---|---|
| すぐ(1時間以内) | 上の階の部屋や元栓で水を止める。電気製品の近くなら、ブレーカーを落とすよう伝える | 上の階が留守なら、管理会社や水道業者と立ち会って入る。入居者に連絡を試みた記録を残す |
| 当日 | ぬれた所、天井のしみ、家財の写真を撮る。日付の入る形で残す | 入居者の家財も、捨てる前に写真を撮ってもらう |
| 当日〜翌日 | 自分の保険会社に連絡する。上の階の入居者が原因らしいときは、その人にも保険会社への連絡を頼む | 「全部こちらで払います」とその場で言わない。原因が決まってから |
| 2〜3日以内 | 水道業者・工務店に原因を調べてもらい、報告を書面でもらう | 原因の報告書が、保険と話し合いの土台になる |
| 3日以内 | 被害を受けた入居者に、分かったことと今後の予定を書面で知らせる | 天井を開けて乾かす期間、工事の日程の見込みを書く |
部屋に入るときの決まり(標準契約書)
- 大家さんが修繕をするときは、あらかじめ入居者に知らせる(第9条)
- 部屋に入るときは、入居者の承諾を得るのが原則(第16条)
- 水が下の階に漏れ続けているなど急ぐときは、承諾を得ずに入れる。入居者が留守のときに入ったら、入ったあとで知らせる(第16条4項)
急ぐときでも、できるだけ入居者に声をかけ、立ち会ってもらうのが基本です。
4. 部屋が使えなかった分の家賃
民法611条は、入居者のせいでなく部屋の一部が使えなくなったら、使えない割合に応じて家賃が下がる、と決めています。
よくある思い込み
入居者が求めて初めて下がる
民法611条の書き方
当然に下がる
だから、大家さんの方から計算を示すと、入居者の信頼を得やすくなります。
計算は「使えなかった日数」×「使えなかった割合」
割合に法律で決まった物差しはないので、入居者と話して決めます。話し合いの手がかりとして、業界団体が出している目安の表(雨漏りで使える所が限られるときは5〜50%など)を、設備が壊れたときの大家の修繕義務で紹介しています。
5. ケーススタディ:103号室の天井から水が落ちてきたAさん
※説明のための仮の例です。
Aさんは、木造アパート(1K・8戸・家賃6.5万円)を相続しました。築18年です。ある土曜の夜、103号室の入居者から「天井から水が落ちている」と電話がありました。
① すぐにしたこと
真上の203号室に電話すると、入居者が在宅で、洗濯機の給水ホースが外れていたと分かりました。蛇口を閉めてもらい、水は30分ほどで止まりました。Aさんは103号室の入居者に、天井近くのコンセントを使わないよう伝え、翌朝訪ねる約束をしました。
② 翌日に確かめたこと
| 確かめたこと | 分かったこと |
|---|---|
| 103号室の被害 | 天井のしみ、床の一部がぬれた。入居者のノートパソコンと布団がぬれた |
| 原因 | 203号室の洗濯機ホースの外れ(入居者本人も認めている) |
| 建物の被害 | 103号室の天井板の張り替えが要りそう |
| 203号室の保険 | 入居のときに入った保険に、個人賠償責任の補償が付いていた |
③ だれが何を払うかを整理した表
| 損害 | 主に負う人 | 受ける保険 |
|---|---|---|
| 103号室の入居者のパソコン・布団 | 203号室の入居者 | 203号室の入居者の個人賠償責任 |
| 103号室の天井板(建物) | 203号室の入居者 | 203号室の入居者の保険。足りなければ、Aさんの建物の保険の水濡れ補償を相談 |
| 工事の間の103号室の家賃 | Aさんが減額(あとで203号室側に求められるかは保険会社と相談) | ― |
④ 家賃の減額の計算
天井を開けて乾かし、張り替えるまで、7日かかる見込みでした。その間、103号室の入居者は部屋で寝起きできますが、部屋の半分ほどは使えません。Aさんは、入居者と話して、使えなかった割合を5割としました。
| 計算 | 金額 |
|---|---|
| 1日あたりの家賃 | 65,000円÷30日=約2,167円 |
| 7日分 | 2,167円×7日=約15,167円 |
| 5割として | 15,167円×0.5=約7,583円 |
7日
使えなかった日数
5割
使えなかった割合
7,600円
次の月の家賃から引くと書面で伝えた額
※日数・割合・金額は、説明のための仮の例です。
業界団体の目安の表には、修理にふつうかかる日数は減らさない「免責日数」の考え方もあります。Aさんは、入居者が夜中に被害を受けたことを考え、初日から数えることにしました。
⑤ もし原因が建物の配管だったら
もし、ホースではなく、壁の中の給水管の傷みが原因だったら、Aさんの負担になります。
パソコンと布団
Aさんの賠償責任保険を、保険会社と相談する
天井板と配管
建物の火災保険の水濡れ補償で受けられるかを確かめる
Aさんはこの件をきっかけに、築18年の建物の給水管・排水管を、次の点検のときに見てもらうことにしました。
6. 雨漏りを早く見つけるための年2回の見回り

雨漏りは、見つけるのが遅れるほど、入居者の損害が大きくなります。大きな工事はアパートの大規模修繕|外壁・屋上の時期で扱うので、ここでは見回りで確かめる所に絞ります。
| 時期 | 見る所 | 見つけたら |
|---|---|---|
| 梅雨の前(5月ごろ) | 屋根の板のずれ、雨どいの詰まり、ベランダの排水口のごみ | 雨どい・排水口は掃除。屋根は業者に見てもらう |
| 台風のあと(9〜10月ごろ) | 外壁のひび、窓まわりのすき間、共用廊下の天井のしみ | 写真を撮り、業者に相談 |
| 入居者の退去のとき | 天井・押し入れの上のしみ、洗濯機置き場の床 | 次の入居の前に直す |
入居のときの一言も効きます
「天井にしみが出たら、小さくてもすぐ知らせてください」と、入居のときにお願いしておきます。修繕の分担の全体は、設備が壊れたときの大家の修繕義務で説明しています。
よくあるご質問
Q. 入居者から「パソコンの代金を全部払ってほしい」と言われました。
賠償は、ふつう、ぬれた時点での物の価値(使った年数を引いた額)で考えます。新品の代金がそのまま出るとは限りません。保険会社の査定をもとに話してください。原因が上の階の入居者なら、その人の保険会社とのやりとりになることを説明します。
Q. 上の階の入居者が、保険に入っていませんでした。
その入居者が自分で払うのが基本です。大家さんは、両方の入居者が話せるよう間に立ちますが、代わりに払う義務があるわけではありません。話がまとまらないときは、弁護士の先生に相談するよう勧めてください。
Q. 雨漏りの修理が終わるまで、ホテルに泊まりたいと言われました。
部屋で寝起きできないほどなら、宿泊費をどうするかを話し合います。部屋が全く使えない日の家賃は、もらわないのが基本と考えてください(一部が使えないときの減額を決めた民法611条の考え方を、全部に当てはめた扱いです)。法律でどう扱われるかは事情で変わるので、個別には弁護士の先生にご確認ください。宿泊費を出すかどうかは、保険で受けられるかを先に保険会社に確かめてください。
Q. 入居者が自分で業者を呼んで直し、費用を請求してきました。
大家さんに知らせたのに、ほどよい期間(相当の期間)のうちに直さなかったとき、または急ぐときは、入居者が自分で直すことができます(民法607条の2)。かかった費用のうち必要な分は、大家さんにすぐ請求できます(民法608条)。連絡を受けたらすぐ動くことが、何よりの予防になります。
雨漏り・水漏れの損害は、原因で負う人が決まります。建物と設備の傷みは大家さん、入居者の不注意はその入居者が負うのが基本です。最初の72時間で、止める・撮る・保険会社に知らせる・入居者に書面で知らせる、を済ませてください。
使えなかった日数分の家賃は、大家さんの方から計算を示すと、話が穏やかに進みます。
出典:民法 第415条・第606条・第607条の2・第608条・第611条・第717条(e-Gov法令検索)/国土交通省「賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)」/法務省「2020年4月1日から 賃貸借契約に関する民法のルールが変わります」
その他のテーマは不動産コラムにまとめています。