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親が老人ホームなどの施設に入り、実家に誰もいなくなった。「今のうちに売っておいた方がいいのか」と迷う方は多いです。「いつか帰れるかもしれない」と思うと、片付けるのも気が引けます。このページでは、親の家を「空き家のまま置く」「貸す」「親が売る」「家族が住む」の4つに分けて比べます。大事なのは、急いで決めることではなく、順番を間違えないことです。
このページのポイント
- 家の持ち主は、施設に入っても親のままです。売る・貸すを決めるのは、親本人です。
- 親が売るなら、住まなくなった日から3年たつ日の年の12月31日までに売れば、3,000万円の特例が使えます。
- 家を現金にすると、相続税が高くなることがあります。人に貸すと、亡くなった後の税の特例が使えなくなることがあります。
このページの内容
1. 当社の考え ― 判断がしっかりしているうちなら、売るのも一つ
当社では、親の判断がしっかりしているなら、生前に売るのも一つと考えています。売るのは、名義人である親本人です。売る意思がはっきりしているうちなら、手続きを進められます。売ったお金を、施設の費用などに充てることもできます。
ただし、売って現金にすると相続税が高くなることがあります(4.で説明)。
2. 最初に確かめる3つのこと
| 確かめること | 調べ方 | なぜ大事か |
|---|---|---|
| ① 親が家に戻る見込み | 施設の職員や、ケアマネジャー(介護の計画を立てる人)に聞く | 戻る見込みがあれば、売る・貸すは急がない |
| ② 親の判断の力 | ふだんの会話、主治医の意見 | 売る・貸す契約は、親本人の意思がはっきりしていることが前提 |
| ③ 家が建った年と、住まなくなった日 | 登記事項証明書(法務局)、施設の入所の契約書 | 使える税の特例と、その期限が決まる |
②:判断の力が十分でないと
親が名前を書いても、契約が無効になることがあります(民法3条の2)。
③:「住まなくなった日」の記録を残します
施設に入った日が目安です。施設との契約書や、住民票を移した日の記録を残しておきます。
3. 4つの道を比べる
表の印は、○が使える、×が使えない、△が人によって使える、-が関係なくなる、の意味です。3つの特例の中身は、表の下で説明します。
| 道 | 親が売るときの3,000万円の特例 | 空き家の3,000万円控除 | 小規模宅地等の特例 | 管理の手間 |
|---|---|---|---|---|
| A 空き家のまま置く | ○ 期限内に売れば | ○ 条件を満たせば | ○ 条件を満たせば | 続く(税・保険・通う手間) |
| B 人に貸す | ○ 期限内に売れば | × 使えなくなる | × 自宅としては使えない | 貸す前の修理と、貸した後の管理 |
| C 親が売る | ○ 期限あり | - 家がなくなる | - お金に変わる | なくなる |
| D 家族が住む | ○ 期限内に売れば | × 住んだ人がいると使えない | × 家計が別の家族が新しく住むと使えない(入所前から一緒に住んでいた家族・配偶者などは別) | 住む人が持つ |
親が売るときの3,000万円の特例
自分が住んでいた家を売ると、利益から最大3,000万円を差し引けます。住まなくなった後でも、期限内なら使えます(5.で説明)。住まなくなった後の使い方は問われません。
ただし、子どもなど「特別の関係がある人」に売った場合は使えません。
亡くなった後の、空き家の3,000万円控除
親が亡くなった後に、相続した人が売るときの特例です。老人ホームに入っていても、要介護認定などを受けていたことなどの条件を満たせば使えます。
ただ、入所の後に人に貸したり、ほかの人が住んだりすると使えません。昭和56年5月31日以前に建てた家であることも条件です。
くわしくは空き家の3,000万円控除をご覧ください。
使えない場合は空き家の3,000万円特別控除が使えない5つの場合にまとめています。
相続税の小規模宅地等の特例
亡くなった人の自宅の土地は、相続税の計算で、330㎡まで評価が80%減ることがあります。老人ホームに入っていた場合も、入所の前の家が「自宅」として扱われることがあります。要介護認定などを受けていたこと、空いた家を人に貸していないことなどが条件です。
また、この特例を受けられるのは、配偶者、一緒に住んでいた家族、持ち家のない一定の家族などに限られます。子どもがみな自分の持ち家に住んでいる場合は、使えないことが多いです。
さらに、入所の後に、親と家計が別の家族が新しく住むと、この特例は使えなくなります。表のDの道を×としているのは、このためです。
「貸す」は、いちばん慎重に考えたい道です
家賃が入る一方で、亡くなった後の特例を2つとも失うことがあるからです。
4. 現金にすると、相続税が上がることがある理由

相続税では、家と現金で、値段の数え方が違います。
| 財産 | 相続税での数え方 |
|---|---|
| 土地 | 道路ごとの値段(路線価)をもとに計算します |
| 建物 | 固定資産税の評価額で計算します |
| 現金 | そのままの額で数えます |
土地と建物は、どちらも、実際に売れる値段より低くなることが多いです。そのため、売って現金にした方が、財産が大きく数えられることがあります。
相続税への影響は、慎重に見極めます
当社では、この点は慎重に見極めるべきだと考えています。売ってしまうと、小規模宅地等の特例も使えません。どちらが得かは、家の値段と財産全体で変わります。計算は、税理士の先生に相談してください。
3つの値段の違いは相続税評価額とは|売れる値段・固定資産税評価額との違いをご覧ください。
家と現金のどちらで残すかの考え方は、相続は現金と不動産どっちが得かで説明しています。
5. 生前に売るなら「3年たつ日の年の年末」までに
親が自分の住まいを売るときの3,000万円の特例は、住まなくなった家でも使える場合があります。期限は、住まなくなった日から3年を経過する日が属する年の12月31日です。
2026年5月
施設に入る(住まなくなる)
2029年12月31日
売る期限
注意点もあります。
- 子や孫、配偶者など、特別な関係の人に売ると、この特例は使えません。
- ほかにも細かい条件があります。使えるかは、税理士の先生に確かめます。
- 特例を使うと税が0円になる場合も、確定申告が要ります(不動産を売った翌年の確定申告|やり方と必要書類)。
6. 例:母の家を売るか迷うAさん

結論:この例では、母が売る方が、税の合計が約290万円少なくなります。
(人物・金額は、すべて説明のための仮の例です)Aさんは50代の女性で、母(82歳)の娘です。兄が1人います。母は、足腰が弱くなり、令和8年3月に有料老人ホームに入りました。話はしっかりしていて「家のことは任せる。でも、決めるときは私も聞きたい」と言っています。
- 実家は埼玉県の住宅地。母が昭和63年4月に、土地1,800万円・建物(木造)1,200万円で買った家です。
- Aさんも兄も、自分の持ち家に住んでいます。
- 不動産会社の見立てでは、今売れば3,800万円です。
Aさんは「母が売る(C)」と「空き家のまま置いて、相続の後に売る(A)」を比べました。
① 母が令和9年3月に売る場合の税
- 建物の取得費:60万円(※1)
- 取得費:土地1,800万円+建物60万円=1,860万円
- 仲介手数料(法律で決まった上限):(3,800万円×3%+6万円)×1.1=132万円
- 利益:3,800万円-1,860万円-132万円=1,808万円
- 自分の住まいの3,000万円の特例を使うと、利益は0円。税は0円(確定申告は必要)
※1 建物は、古くなった分を買った値段から引きます。1,200万円×0.9×0.031×39年=1,305万7,200円ですが、引けるのは建物の値段の95%(1,140万円)までです。1,200万円−1,140万円=60万円が残ります。0.9=建物の値段の9割で計算する決まり。0.031=住まいに使う木造の建物の率。39年=昭和63年4月〜令和9年3月(6か月以上の端数は1年)。くわしくは相続した家を売ったときの税金の2.をご覧ください。
② 置いておき、母が亡くなった後に、兄妹が同じ3,800万円で売る場合の税
- 家は昭和63年に建てたので、空き家の3,000万円控除は使えない
- 兄妹にとっては自分の住まいではないので、自分の住まいの特例も使えない
- 利益は①と同じ1,808万円。税は約367万円(※2)
※2 内訳は、所得税15%(271万2,000円)+復興特別所得税(5万6,952円)+住民税5%(90万4,000円)です。
③ 相続税への影響(母の財産:家のほかに預金2,000万円、相続人は兄妹2人)
相続税がかからない枠(基礎控除)は、3,000万円+600万円×2人=4,200万円です。
| C 母が売る | A 置いておく | |
|---|---|---|
| 相続のときの財産 | 売ったお金3,668万円+預金2,000万円=5,668万円 | 家の評価2,900万円(土地2,800万円・建物100万円の想定)+預金2,000万円=4,900万円 |
| 基礎控除を引いた額 | 1,468万円 | 700万円 |
| 相続税(2人の合計) | 約147万円 | 70万円 |
| 売るときの税 | 0円 | 約367万円 |
| 税の合計 | 約147万円 | 約437万円 |
※相続税では、土地は路線価、建物は固定資産税の評価額で数えるため、家の評価(2,900万円)は売れる値段(3,800万円)より低くなります(4.の表)。
約147万円
C 母が売る:税の合計
約437万円
A 置いておく:税の合計
- 小規模宅地等の特例は、兄妹とも持ち家があるので使えない前提です。
- 施設の費用で預金が減ることや、置いておく間の維持費は、この表に入れていません。
- 相続税は、法定相続分どおりに分けた場合の総額で、税額の控除などは入れていません。
- Aの「売るときの税」には、相続税を払った人が使える取得費加算の特例(国税庁 No.3267)を入れていません。使えれば、この税は少し下がります。
この例から分かること
家を現金にして相続税は増えましたが、売るときの税がなくなる分が大きく、Cの方が税の合計は少なくなりました。家の値段や財産の額が違えば、結果は変わります。必ず税理士の先生に計算してもらってください。
Aさんは、母と兄と3人で、施設の面会室で話し合いました。母は「帰れないのは分かっている。あの家は、誰かに住んでもらえるほうがうれしい」と言いました。そこで、次のように決めました。
- 期限(令和11年12月31日)より1年以上前に売り終える予定で、令和8年の秋に売り出し、令和9年3月ごろの引き渡しをめざす(①の税の計算と同じ時期)
- 売買の契約は、母が自分で結ぶ。施設で会えるよう、不動産会社と司法書士の先生に日程を合わせてもらう
- 思い出の品は、母と一緒に写真を見ながら選び、施設の部屋に持っていく
- 税の計算と申告は、税理士の先生に頼む
Aさんの決め方のコツ
- 「今の持ち主は母」と意識し、母の意思を真ん中に置いた
- 家が建った年で、亡くなった後の特例が使えるかを先に確かめた
- 売るときの税と相続税を、同じ表に並べて比べた
親が売るときに気をつけること
- 売ったお金の置き場所:売ったお金は、親の預金になります。子どもの口座に移すと、贈与になることがあります。
- 家財の整理:親に聞きながら、残す物を選びます。

7. 売るための判断ができなくなると、本人は売れなくなる
家を売るには、売る本人の意思が必要です。親が認知症で判断できなくなると、親本人は売れません。子が代わりに売ることも、そのままではできません。
成年後見人が売るときは、家庭裁判所の許可が要ります
この場合は、家庭裁判所が選ぶ成年後見人が売ることになります。ただし、親の住まいを売るには、家庭裁判所の許可が要ります(民法第859条の3)。
施設に入って、今は住んでいない家も、住まいとして扱われるのが一般的です。許可なく結んだ契約は、無効とされます。
時間がかかるので、元気なうちに、家族で話し合っておくことが大切です。
すでに判断が難しくなっている方は親が認知症になった後の家|成年後見と売却をご覧ください。
8. 置いておくと決めたとき
「まだ決められない」「戻る見込みがある」なら、空き家のまま置くのも一つの道です。その場合は、次の3つを済ませておきます。
- 1火災保険の見直し誰も住まなくなったことを、保険会社に伝える
- 2管理の分担通う人、回数、費用の出どころ(親のお金か、家族の立て替えか)を決めて、書いておく
- 3期限の記録自分の住まいの特例の期限(住まなくなった日から3年たつ日の年の12月31日)を、家族の予定表に書いておく
相続の前に家族で話しておくことは親が元気なうちに実家じまいを始める|生前に決めておくことにもまとめています。
よくあるご質問
親が施設に入ったら、すぐ売った方がいいですか。
一概には言えません。3,000万円の特例の期限と、親の判断の力を考えて、時期を決めます。相続税への影響は、税理士の先生に先に確かめてください。
老人ホームに住民票を移しても、家は「親の自宅」の扱いのままですか。
相続税の小規模宅地等の特例と、空き家の3,000万円控除では、住民票では判断しません。
要介護認定などを受けて施設に入ったか、入所の後に貸していないかなどで判断します。自分の住まいの特例は「住まなくなった日」から期限を数えます。どれに当たるかは、税理士の先生に確かめてください。
子が親から家を買い取ってもいいですか。
買うこと自体はできます。ただし、親子の売買では、親の3,000万円の特例は使えません。値段が安すぎると、差額が贈与と見なされることもあります。税理士の先生にご相談ください。
親が「売りたくない」と言います。
家の持ち主は親です。気持ちが落ち着くまで待ち、置いておく場合の費用と期限を、紙に書いて一緒に見るところから始めてください。決めるのは、親本人です。
グループホームとして貸す話がきました。
貸すと、亡くなった後の特例が使えなくなることがあります。家賃と、失う特例の額を並べて比べてください(空き家をグループホームに貸す)。
親の代わりに、子が不動産会社とやり取りしてもいいですか。
相談や準備は、子が窓口になって構いません。ただ、売る契約と名義の手続きでは、親本人の意思の確認があります。司法書士の先生が、親本人に会って確かめることが多いです。
税の特例や手続きは、変わることがあります。この記事は2026年11月時点の国税庁の説明と民法をもとにしています。
生前に売るか残すかの具体的な税の比べ方は、税理士の先生に、契約の進め方は司法書士の先生にご確認ください。
相続の手続き全体のご相談は、まとめる相続でも受け付けています。
出典:国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例/国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例/国税庁 No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋/国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)/国税庁 No.4152 相続税の計算/国税庁 No.4155 相続税の税率/国税庁 No.4602 土地家屋の評価/国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例/国税庁 No.3261 建物の取得費の計算/民法(e-Gov法令検索)第3条の2・第859条の3/大阪家庭裁判所「居住用不動産処分許可の申立てについて」(PDF)
その他のテーマは不動産コラムにまとめています。