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騒音の苦情は、賃貸の困りごとの中でも解決しにくいものです。音の感じ方は人によって違い、出している側に自覚がないことも多いからです。放っておくと、苦情を言った入居者が引っ越してしまうこともあります。
このページでは、苦情を受けてから解決までの進め方を、段階に分けて説明します。大家さんが「どこまでやれば十分か」を判断する目安にしてください。
このページのポイント
- 大家さんには、入居者が部屋を落ち着いて使えるようにする役目があります。苦情は「当事者どうしで」と突き放さないでください。
- 進め方は「記録→全体への掲示→個別の手紙→面談→書面での注意」の順。いきなり強く出ません。
- 苦情を言った人の名前は出さない。大家さんが一人で乗り込まない。解約などの話は弁護士の先生に相談します。
このページの内容
1. 大家さんが動く理由
貸す人(大家さん)
借りる人に物を「使わせる」ことを約束します(601条)
借りる人(入居者)
契約や物の性質で決まった使い方を守らなければなりません(594条1項を616条で準用)
国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」には、入居者がしてはいけないこととして、次の項目があります。
標準契約書 別表第1 四
大音量でテレビ、ステレオなどを使ったり、ピアノなどを演奏したりすること
この項目に違反し、注意しても直らず、契約を続けるのが難しいと認められるときは、契約を解除できる形になっています(第10条2項)。
解除は最後の手段です
実際に解除できるかは、音の程度や回数、注意の経過で判断されます。必ず弁護士の先生に相談してください。
2. まず「生活音」か「迷惑な音」かを分ける
| 種類 | 例 | 大家さんの対応 |
|---|---|---|
| 生活音 | 足音、ドアの開け閉め、洗濯機、トイレの水 | 全体への掲示で気づいてもらう。時間帯の工夫をお願いする |
| 迷惑な音 | 深夜の大音量の音楽、楽器、大声の集まりが続く | 個別に注意する |
| 建物の音 | 給排水管の音、換気扇の振動、室外機 | 大家さんが点検・修理する |
3つ目の「建物の音」は見落としやすい所です
苦情の音が、実は設備の不具合から出ていることもあります。その場合は、修繕の話になります。くわしくは設備が壊れたときの大家の修繕義務で説明しています。
区や市の窓口でも、家庭の生活音は、法律や条例の規制基準をそのまま当てはめるのは向かないとされています。「お互いにどこまで我慢すべきか(受忍限度)」で考えるものだからです。そのため、大家さんの間に入る役目が大きくなります。
3. 解決までの5つの段階
- 1記録苦情を言った人に書いてもらう
- 2全体への掲示全戸にお願いの紙
- 3個別の手紙だれからの苦情かは伏せる
- 4面談2人以上で会う
- 5書面での注意弁護士の先生に相談しながら
| 段階 | やること | 目安の期間 |
|---|---|---|
| ① 記録 | 苦情を言った人に、日時・音の種類・続いた時間を書いてもらう | 1〜2週間 |
| ② 全体への掲示 | 全戸に「夜は音に気をつけて」とお願いの紙を配る・貼る | 2週間ほど様子を見る |
| ③ 個別の手紙 | 音を出していそうな部屋に、だれからの苦情かは伏せて手紙を入れる | 2週間ほど様子を見る |
| ④ 面談 | 管理会社か大家さんが、2人以上で会って話を聞く | 1回 |
| ⑤ 書面での注意 | 契約書のどの項目に反するかを示し、改めるようお願いする | 弁護士の先生に相談しながら |
②か③で収まることも少なくありません。「自分の音が響いていると知らなかった」という人もいるからです。
①の記録が、すべての土台です
伝わりにくい
「毎晩うるさい」
伝わる
「11月3日 23時10分〜23時40分 足音とドンという音」
音を出す部屋を思い込みで決めない
記録から、どの部屋のどの時間帯かを考えます。木造のアパートでは、上の部屋ではなく、斜め上や隣の音のこともあります。
4. 掲示と手紙の文例
②の全体への掲示は、だれかを責める書き方にしないのがこつです。たとえば次のような文にします。
掲示の文例
入居者の皆さまへ
夜遅い時間の足音や洗濯機の音が、ほかのお部屋に響いているとのご相談をいただきました。
木造の建物のため、思った以上に音が伝わることがあります。
夜10時以降は、洗濯機のご使用や、足音・ドアの開け閉めに少しだけご配慮をお願いいたします。
③の個別の手紙では、次の3つを入れます。
- 1前置き「ご本人に心当たりがない場合もあると思いますが」
- 2具体的にいつごろの、どんな音かを、記録をもとに(例:「平日の夜11時ごろの足音」)
- 3連絡先困っていることがあれば連絡してほしい、と大家さん(管理会社)の連絡先を書く
避けたい書き方
「苦情が来ています」
受け止めやすい書き方
「ご相談をいただきました」
5. やってはいけないこと
- 苦情を言った人の名前や部屋番号を伝える:入居者どうしの関係がこじれます
- 大家さんが一人で夜に部屋へ行く:言い争いになりやすく、身の危険もあります
- 「出て行ってもらう」と口にする:話し合いの余地がなくなります
- 苦情を言った人に「我慢して」とだけ言う:その人が引っ越す理由になります
身の危険を感じるときは、迷わず警察へ
暴力・脅しがあるときも、警察に相談してください。急がない相談は、警察相談専用電話「#9110」も使えます(すぐに来てほしいときは110番)。
音のほかに、無断の又貸しや同居を見つけたときの進め方は、無断の又貸し・同居を見つけたときで説明しています。
6. ケーススタディ:8戸のアパートを相続したAさん
(説明のための仮の例です)Aさんの木造アパート(1K・8戸・家賃6.5万円)で、102号室の入居者から「上の部屋の足音で眠れない」と苦情が来ました。
Aさんは、まず102号室の人に2週間、記録をお願いしました。
| 曜日 | 時間帯 | 音 |
|---|---|---|
| 平日の多く | 23時〜24時 | 歩く音、物を置く音 |
| 週末 | 0時〜1時 | 歩く音、洗濯機の振動 |
Aさんは段階どおりに進めました。
はじめ
全戸に「夜10時以降の洗濯機や足音にご配慮を」という紙を配った
2週間後
まだ続いたので、202号室に、だれからかを伏せて手紙を入れた
その後
202号室の人から「気づかなかった。帰りが遅いので夜に家事をしている」と連絡があった

Aさんは、ここでお金の比べをしました。
202号室に防音のマット(6畳分)を大家さんが用意する
マットの代金(広さと厚さで変わる。いくつかの店で比べる)
102号室の人が引っ越した場合
空室2か月で家賃13万円、ほかに募集の費用
比べる式は、「対策にかかるお金」と「家賃×空室になりそうな月数+募集の費用」です。前の方が小さければ、対策を先に打つ方が得です。Aさんは、マットの代金と、6.5万円×2か月=13万円を比べました。
Aさんは、マットを用意して202号室に渡しました。202号室の人も、洗濯は夜10時までにすると約束してくれました。1か月後、102号室の人に聞くと「だいぶ静かになった」とのことでした。
大事なのは「音が減る手」を一緒に探したこと
大家さんが「音を出した人を責める」より、「音が減る手」を一緒に探しました。古い木造は、ふつうの暮らしの音でも響きやすい建物です。建物の性質もふまえて、できる手を考えてください。
空室が出たときの原因の考え方は、三鷹市の空室対策|空室が続くときに見直す5つのことで説明しています。
よくあるご質問
Q. 音の大きさを測って、基準をこえたら注意してよいですか?
家庭の生活音について、部屋の中で何デシベルまでという決まった基準はありません。国の環境基準(住まいの地域で昼55デシベル以下・夜45デシベル以下)は、地域の屋外の環境についての目安で、部屋どうしの音の基準ではありません。測った数字は、記録の1つとして使ってください。
Q. 苦情を言ってくる人の方が、神経質すぎるように思います。
その可能性もあります。ただ、記録を見ないうちに決めつけないでください。記録で音が確かめられなければ、その結果を伝えたうえで、様子を見ることになります。
Q. 子どもの足音の苦情が来ました。
子どもがいることを理由に、出て行くよう求めるのは避けてください。足音を減らすマットの用意や、時間帯の工夫など、できる手をお互いに探します。
Q. 管理会社に任せている場合、大家は何をすればよいですか?
苦情の受付と注意は管理会社の仕事であることが多いです。どの段階まで進んだか、報告をもらってください。任せる仕事の範囲は管理委託料の相場と、含まれる仕事で説明しています。
騒音の苦情は、記録を取り、段階を踏んで進めるのが近道です。音を出す人を責めるより、音が減る手を一緒に考えてください。
苦情を受けたときの記録のひな形と見直し方は、入居者からの苦情の記録の残し方で説明しています。
出典:民法 第594条・第601条・第616条(e-Gov法令検索)、国土交通省「賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版。第8条、第10条、別表第1)、目黒区「気づいていますか 近隣公害」、環境省「騒音に係る環境基準について」、政府広報オンライン「警察に相談したいときは『#9110』」、東京都 住宅政策本部「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」(第4版改訂、令和4年12月)
その他のテーマは不動産コラムにまとめています。