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実家を売るのではなく、貸して家賃を得たい。そう考えたとき、最初に悩むのが「どこまで直してから貸すか」です。全部きれいにすれば借りる人は見つかりやすい。でも、費用を家賃で取り戻せるとは限りません。
このページでは、直す所の優先順位、見積もりの見方、工事費を家賃で取り戻せるかの比べ方、直さずに貸す方法を説明します。
このページのポイント
- 貸した後の修理は、原則として貸す側の負担です(民法606条)。雨漏り・水漏れ・電気やガスなど、壊れたら暮らせない所は先に直します。
- 直す費用は「何年分の家賃で取り戻せるか」で考えます。貸すつもりの年数より十分短いかが目安です。
- 相続した空き家を後で売るときの税の特例(3,000万円の控除)は、一度でも貸すと使えなくなります。貸す前に必ず確かめます。
1. 貸す前に知っておく決まり
貸した後の修理は、原則として貸す側の負担
家を貸すと、貸す側(貸主)には、借りた人が使えるように修理する義務があります(民法606条)。借りた人の使い方が原因で壊れた場合は別です。
直さずに貸すと
「お湯が出ない」「雨が漏る」
そのたびに急ぎで直すことになり、費用も高くなりがち
別の貸し方
DIY型賃貸借
契約で「この部分は借りた人が直してよい・直す」と決めておく
国土交通省は、借りる人が自分で手を入れられる「DIY型賃貸借」の契約書の例と手引きを出しています。古い家を安く貸し、借りた人が自分好みに直す形です。
2. 直す所の優先順位
必ず直す(安全と暮らしの基本)
雨漏り、屋根・外壁の割れ、給水・排水の水漏れ、給湯器、電気の配線・ブレーカー、ガス設備、床の沈み・抜け、玄関や窓の鍵。
壊れたら暮らせない。事故の責任も問われる
直すと決まりやすい
トイレ・洗面台の交換、浴室・台所の古さ、壁紙・畳・ふすま、照明、網戸。
見学の印象が大きく変わる。家賃にも響く
直さずに貸せる(契約で決める)
壁紙や床の好みの張り替え、庭の手入れ、内装の模様替え。
DIY型賃貸借で借りる人に任せられる
忘れやすい:住宅用の火災警報器
消防法の改正で、平成23年6月までに、基本的にすべての住宅に付けることが義務になりました。付ける場所(寝室・階段など)は市区町村の条例で決まっています。
古い家では付いていない、電池が切れている、10年を過ぎて古くなっている、ということがよくあります。本体は自分でも付けられます。貸す前に全部の寝室と階段を確かめてください。
昭和56年5月以前に建てた家
今の耐震の基準より前の家です。多くの市区町村が、耐震診断や耐震改修に補助を出しています。貸す前に、物件のある市区町村の制度を確かめてください。
3. 工事の値段を左右すること
| 工事 | 値段を左右すること | 見積もりで確かめること |
|---|---|---|
| 給湯器の交換 | 号数(お湯を出す力)、置き場所、配管の古さ | 本体の型番、古い機械の処分が入っているか。10年を超えたら交換を考える |
| トイレの交換 | 便器の種類、床の張り替えの有無 | 床や壁紙の張り替えが含まれるか |
| 洗面台の交換 | 幅、収納の有無 | 給水・排水の管の直しが含まれるか |
| 台所(システムキッチン)の交換 | 大きさ、形(壁付けか対面か)、設備 | 古い台所の撤去と処分、壁や床の直しが含まれるか |
| 浴室(ユニットバス)の交換 | 広さ、在来の浴室からの変更か | 土台の傷みが見つかったときの扱い |
| 床の張り替え | 広さ、下地の傷み | 下地を直す場合の追加の料金 |
| 壁紙・畳 | 部屋の数と広さ、材料の種類 | 1部屋ごとの内訳 |
| 屋根の塗装・カバー工事・葺き替え | 屋根の広さ、瓦やスレートの種類、傷みの広さ | 足場の料金、保証の年数 |
同じ工事の中身で2〜3社を比べる
値段は、家の広さ・傷み・地域で大きく変わります。必ず2〜3社から、同じ工事の中身で見積もりを取って比べてください。
4. ケーススタディ:築40年の実家を貸したいCさん
人物・金額は説明のための仮の例です。
Cさんは、埼玉県の住宅地にある築40年の実家(4DK)を相続しました。近くの同じような一戸建ての家賃は、月10万円前後です。工務店に見てもらうと、次の2つの案が出ました。
| 項目 | 案① 全部直す | 案② 必要な所だけ直す |
|---|---|---|
| 工事 | 屋根の塗装、給湯器、トイレ、浴室、台所、壁紙・畳すべて | 屋根の塗装、給湯器、トイレ、壁紙・畳を一部 |
| 見込みの家賃 | 月10.5万円 | 月9万円 |
| 1年の家賃 | 126万円 | 108万円 |
月1.5万円
案①のほうが高い家賃
年18万円
1年の家賃の差
180万円
家賃の差の10年分
Cさんは、10年ほど貸した後に売るか考えるつもりでした。そこで、「案①と案②の見積もりの差が、家賃の差の10年分(180万円)より多いか少ないか」で比べました。
実際は、管理の手数料など家賃に合わせて増える出費もあるので、手元に残る差は18万円より少し小さくなります。
Cさんの結論:案②
案①と案②の見積もりの差が180万円より少なければ、10年で取り戻せます。取り戻す年数は「見積もりの差÷18万円」で出せます。
Cさんの見積もりの差は、180万円を大きく上回りました。毎年1か月の空室を見込むと、取り戻せる上限は165万円に下がります(下の表)。全部直しても、貸すつもりの10年では取り戻せません。
そこで案②を選び、浴室と台所は「今の状態で使える」ことを確かめたうえで、そのまま貸すことにしました。
空室があった場合
1年のうち1か月空室になると、1か月分の家賃が減ります。
| 空室なし | 毎年1か月空室 | |
|---|---|---|
| 案①の1年の家賃 | 126万円 | 115.5万円 |
| 案②の1年の家賃 | 108万円 | 99万円 |
| 家賃の差(1年) | 18万円 | 16.5万円 |
| 家賃の差(10年) | 180万円 | 165万円 |
空室を見込むと、全部直す案はさらに取り戻しにくくなります。
貸さずに売る場合に、売る前に直すかどうかは、相続した実家を売る前にリフォームは必要かで説明しています。
自分の家で比べるとき
- 1年の手取り=1年の家賃−1年の出費(管理の手数料、固定資産税・都市計画税、火災保険、修理の積み立て)。
- 案ごとに「見積もりの合計」が「1年の手取り」の何年分かを出し、貸すつもりの年数と比べる。
- 「空室なし」と「毎年1か月空室」の2通りで出しておくと、見込みが外れたときに慌てずに済みます。
Cさんが貸す前に確かめたこと
一度貸すと、3,000万円の控除は使えなくなる
- 相続した空き家を売るときの3,000万円の控除は、相続の時から売る時まで、貸したり事業に使ったりしていないことが条件の一つ。一度貸すと使えなくなる。
- この控除が使えた場合、税がいくら減るかを税理士の先生に計算してもらい、貸す場合の手取りと比べた。
- 貸し方は、期間を決めて終わる「定期借家契約」にした。10年後に売るかを決めやすくするため。
特例の条件は空き家の3,000万円控除と空き家の3,000万円特別控除が使えない5つの場合、定期借家は定期借家契約とは、相続した家を貸す考え方は相続した家を貸すときの基本で説明しています。
5. 直す前の進め方

- 1今の状態を調べる雨漏り、シロアリ、床下、配管を見てもらう
- 2家賃の見込みを聞く近くの同じような家の家賃を、不動産会社に聞く
- 32つ以上の案で見積もる「全部直す」と「必要な所だけ」の両方
- 4取り戻す年数を計算する見積もりの合計を、1年の手取りで割る
- 5契約の形を決める普通の賃貸か、定期借家か、DIY型か
傷みの見分け方は空き家の雨漏り・シロアリ、退去のときの決まりは原状回復のルールで説明しています。
相続税や名義変更も、まとめて相談したい方へ
当社は、税理士・司法書士と組んだ相続の相談窓口まとめる相続を運営しています。士業の手配や日程の調整も、窓口一つで進められます。
よくあるご質問
Q. 古いまま「現状のまま」で貸すことはできますか?
できます。ただ、貸した後に壊れた所を直す義務は、契約で決めない限り貸す側に残ります。どこを借りた人が直すのかを、契約書にはっきり書いておくことが大切です。法的な書き方は士業の先生に確認してください。
Q. 直す費用は経費になりますか?
家賃の収入から差し引ける費用になるものがあります。修理か、価値を高める工事かで扱いが変わります。税理士の先生に確認してください。
Q. 貸した家を後で売ることはできますか?
できます。ただ、借りている人がいる間は、売り方が限られます。期間の決まった定期借家にしておくと、売る時期を決めやすくなります。
Q. どの業者に頼めばいいか分かりません。
2〜3社から、同じ工事の中身で見積もりを取り、比べてください。突然訪ねてきて「今すぐ直さないと危ない」と言う業者とは、その場で契約しないでください。
貸す前の工事は、「何年の家賃で取り戻せるか」で決めます。まずは今の状態を調べ、「全部直す」と「必要な所だけ」の2つの見積もりを取ってください。
相続した空き家なら、貸す前に3,000万円の控除との比べ方を税理士の先生に確かめてください。
工事で家賃を上げられるかどうかを1室ずつ計算する方法は、家賃を上げられる工事・上げにくい工事で説明しています。
出典:e-Gov法令検索「民法」第606条/鹿児島県「住宅用火災警報器の設置義務について」/国土交通省「DIY型賃貸借に関する契約書式例とガイドブックについて」/国税庁 タックスアンサーNo.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
その他のテーマは不動産コラムにまとめています。