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アパートの空室が続くと、「リフォームをすれば家賃を上げられるのでは」と考えます。でも、工事の代金は先に出ていき、家賃の上がり方は後からしか分かりません。大事なのは、工事の前に「いくら上がりそうか」「何年で元が取れるか」を数字で見ることです。
このページでは、工事を3つの種類に分け、効き目の測り方と、元が取れる年数の計算をまとめます。壊れた設備の交換の進め方はエアコン・給湯器の交換時期と費用で説明しています。今の入居者の家賃を上げる話は家賃の値上げ|大家さんが入居者に伝える手順と、断られたときにまとめています。
このページのポイント
- 工事は「家賃が上がる」「早く決まる」「どちらにも効かない」の3つに分けて考えます。
- 効き目は、近くの同じような部屋の募集家賃を、その設備が「ある・ない」で比べて測ります。
- 「工事費÷1年で増えるお金」で、元が取れる年数を出します。建物をあと何年貸すつもりかと比べて決めます。
このページの内容
1. 入居者は何を見て部屋を決めているか
国土交通省の住宅市場動向調査(令和7年度。三大都市圏の調査)で、民間の賃貸住宅に入った世帯に、部屋を決めた理由を聞いています。
45.8%
家賃が適切だったから
27.3%
住宅のデザイン・広さ・設備等が良かったから
設備などについて選んだ理由を聞いた結果は、次のとおりです(複数回答)。
※項目の正式な名前:間取り、部屋数/住宅の広さ/台所の設備、広さ/住宅のデザイン/浴室の設備、広さ/防犯性能の高さ。棒の長さは「間取り、部屋数」を100とした割合です。
前の年度(令和5年度・令和6年度)の調査でも、「家賃が適切だったから」がいちばん多い点は同じです。
ここから分かること
入居者は「家賃に見合うか」で決めています。設備は、家賃を上げる道具というより、「この家賃なら納得」と思ってもらう材料です。
2. 工事を3つに分ける
工事は、効き目の出方で3つに分けると、判断がぶれません。
家賃が上がる工事
同じ地域で「ある部屋」と「ない部屋」の家賃に、はっきり差がある。
例:独立した洗面台、室内の洗濯機置き場、2点式(バス・トイレ別)への変更、間取りの変更
早く決まる工事
家賃は変わらないが、比べられたときに選ばれやすくなる。
例:モニター付きインターホン、温水洗浄便座、照明やカーテンレールの取り付け、壁の一面だけ色を変える
どちらにも効かない工事
入居者に見えない、または今の家賃帯では求められていない。
例:地域の家賃帯に合わない高級な設備、見えない所の過剰な仕様
「どちらにも効かない」かは、地域と家賃帯で変わります
同じ設備でも、ある地域では当たり前で、別の地域では差になります。だから、次の測り方が要ります。
3. 効き目の測り方:近くの募集を10件ずつ比べる
自分で、または管理会社に頼んで、次の手順で比べます。
- 1同じ条件の募集を集める同じ駅、同じ徒歩分数の範囲、同じ広さ(±3㎡)、同じくらいの築年数
- 210件ずつに分ける調べたい設備が「ある部屋」と「ない部屋」
- 3真ん中の値を出すそれぞれの家賃と共益費を足した額の中央値
- 4差を見る差が、その設備の「効き目」の目安になる
平均ではなく、真ん中の値を使います
極端に高い部屋や安い部屋に引っぱられないためです。集まる件数が少ないときは、範囲を隣の駅まで広げます。この比べ方は、空室の原因を探すときの比べ方とも共通です。空室の原因の見つけ方は三鷹市の空室対策|空室が続くときに見直す5つのことで説明しています。
4. 元が取れる年数の計算
効き目の目安が出たら、次の式で計算します。
元が取れる年数 = 工事費 ÷ 1年で増えるお金
「1年で増えるお金」は、次の2つの合計です。
家賃が上がる分
上がる額×12か月
早く決まる分
空室が短くなる月数×家賃 ÷ 入居者が入れ替わる間隔(年)
※たとえば、空室が1か月短くなり、入居者が平均4年で入れ替わるなら、1年あたりにならすと家賃の1/4か月分です。
5. ケーススタディ:8戸のアパートを相続したAさんの3つの工事案
※説明のための仮の例です。
Aさんは、木造アパート(1K・8戸・家賃6.5万円)を相続しました。築18年で、洗面台はなく、洗濯機置き場は外廊下にあります。1室が空いたのをきっかけに、3つの工事案を比べました。近くの募集を比べた結果は次のとおりです。
| 工事案 | 近くの募集との比べ | 見込み |
|---|---|---|
| ① 室内に洗濯機置き場を作る(給排水の工事を含む) | ある部屋の中央値が4,000円高い | 家賃+4,000円 |
| ② 独立した洗面台を付ける | ある部屋の中央値が1,000円高いが、件数が少ない | 家賃は上がらない。早く決まる見込み |
| ③ モニター付きインターホンと照明の取り付け | 家賃の差はほぼない | 空室が1か月短くなる見込み |
入居者が入れ替わる間隔は、父の頃の記録から平均4年としました。1年で増えるお金は次のとおりです。
| 工事案 | 1年で増えるお金 |
|---|---|
| ① 洗濯機置き場 | 4,000円×12=48,000円 |
| ② 洗面台(空室1か月短縮と仮定) | 65,000円×1か月÷4年=16,250円 |
| ③ インターホンと照明 | 65,000円×1か月÷4年=16,250円 |
次に、Aさんは「この建物をあと何年貸すつもりか」を考えました。建物の状態と、相続人の間での話し合いから、少なくともあと15年は貸す予定です。そこで、「工事の見積もりが、1年で増えるお金の15年分より少ないか」で比べました。
| 工事案 | 15年分 | 比べる相手 |
|---|---|---|
| ① 洗濯機置き場 | 48,000円×15=720,000円 | 工事の見積もり |
| ② 洗面台 | 16,250円×15=243,750円 | 工事の見積もり |
| ③ インターホンと照明 | 16,250円×15=243,750円 | 工事の見積もり |
工事の値段は、部屋の造り、床下の状態、選ぶ機器で変わります。2〜3社から見積もりを取り、この15年分と並べてください。
年数に直すと、①は見積もりが48万円なら10年(480,000円÷48,000円)、72万円なら15年で元が取れる計算です。工事の値段の目安ではなく、式の読み方の例です。見積もりが出たら、同じように「見積もり÷1年で増えるお金」で年数を出してください。
③ すぐ行う
見積もりが15年分を大きく下回った。空室のうちにすぐ行う
① 確かめてから行う
見積もりは15年分を下回った。ただし給排水の工事は床下の状態で費用が変わるので、2社の見積もりと現地の確認をしてから決める
② 今回は見送り
見積もりが15年分とほぼ同じだった。家賃が上がる根拠も弱い。①を行う部屋で一緒にできないかを考える
8戸すべてを一度に工事しない
Aさんは、空いた部屋から順に行い、1室目の募集の反応(問い合わせの数、決まるまでの日数)を見てから、2室目以降を決めます。こうすると、見込みが外れたときの損を小さくできます。

6. 工事の前に確かめる3つのこと
1. 今の入居者の家賃は、工事だけでは上がらない
工事をした部屋の家賃を上げられるのは、ふつう次の入居者からです。今の入居者の家賃を変えるには、話し合いが要ります。進め方は家賃の値上げ|大家さんが入居者に伝える手順と、断られたときで説明しています。
2. 税金の扱いで、手元のお金の動きが変わる
工事費が、その年の経費(修繕費)になるか、何年かに分けて経費にする(資本的支出)かで、その年の税金が変わります。洗濯機置き場の新設のように、前になかった物を付ける工事は、資本的支出になることが多いとされています。
物差しは賃貸の経費になるもの・ならないもの、償却の計算は減価償却とは|大家向けにやさしくで説明しています。工事の前に、見積書を税理士の先生に見てもらってください。
3. 共用部分の工事とのかね合い
外壁や屋根の大きな工事が近いなら、室内より先にそちらにお金が要ります。時期はアパートの大規模修繕|外壁・屋上の時期にまとめています。
よくあるご質問
Q. 家賃を上げずに、工事だけして早く決めるのは損ですか?
損とは限りません。空室が1か月短くなれば、その分の家賃が入ります。上の式で「早く決まる分」として数えてください。
Q. 近くの募集を比べるのが大変です。
管理会社や、募集を頼んでいる不動産会社に、条件を伝えて集めてもらう方法があります。比べた件数と条件を、書面でもらってください。
Q. 相続したアパートを、いずれ売るかもしれません。
売るまでの年数で元が取れない工事は、見送るのが基本です。売るときの値段への影響は、別に考えます。物件の稼ぐ力の見方は利回りの見方|表面と実質で説明しています。
Q. 定期借家にすれば、工事の後に家賃を上げやすいですか?
契約の期間が終わるときに、新しい条件で契約し直せるのは確かです。ただ、入居者に選ばれにくくなることもあります。仕組みは定期借家契約とはで説明しています。
工事は、家賃が上がるもの、早く決まるもの、どちらにも効かないものに分けて考えます。効き目は、近くの募集を「ある・ない」で比べて測ります。そして「工事費÷1年で増えるお金」で元が取れる年数を出し、建物をあと何年貸すかと比べて決めてください。空いた部屋から1室ずつ試すと、外れたときの損を小さくできます。
出典:国土交通省「令和7年度 住宅市場動向調査報告書」、国土交通省 報道発表「令和7年度住宅市場動向調査の結果をとりまとめ」、参考:令和5年度報告書(家賃が適切51.1%)、令和6年度報告書(同55.5%)、国税庁 タックスアンサー No.1379「修繕費とならないものの判定」
その他のテーマは不動産コラムにまとめています。